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福山弁護士の「飲み法題」

 

道州制を考える〜その1

    今、財界を中心に道州制導入の動きが急速に浮上している。  道州制とは何か。それは、都道府県を廃止して、全国を北海道、東北、 関東というように数都府県からなる広域行政体に再編して一定の広域行 政権を付与するというものをいう。全国をいくつの道州に分けるのかは、 論者によって様々で、9道州、10道州、13道州等の案が提案されて いる。そのいずれの分け方によっても、京都は滋賀、大阪、兵庫、奈良、 和歌山などとともに「関西州」に属することになる。  また道州に付与される権限も論者によって様々で、現在の都道府県の 権限を単に広域にしただけという立場から、立法権まで付与するような 連邦制のような立場まで様々である。    道州制は、もともとは2000年代に入って以来、日本経団連や政府 の地方制度調査会などで議論されてきたが、06年9月に道州制担当大 臣が置かれ、その下に道州制ビジョン懇談会と道州制協議会が設置され た(07年1月)のを受けて、08年夏以降、すなわち新自由主義改革 の矛盾が激化して以降、急速に導入の動きが盛り上がってきた。  すなわち、08年3月24日に道州制ビジョン懇談会が中間報告を出 したほか、日本経団連も08年11月14日に「道州制の導入に向けた 第2次提言」を発表した。  政党レベルでは、民主党は、03年の一斉地方選挙の政策では「政権 をとってから10年後をメドに道州制に移行することをめざ」すと謳う とともに、2009年版政策集には、「将来的な道州の導入も検討」す ると明記し、道州制推進の立場を明言している。  自民党は、もっと明確で09年総選挙のマニフェストで、道州制基本 法を早期に制定し15年から17年を目途に導入することを打ち出した。 自民党の道州制案では、現在約1800に減少した市町村を、さらに 700から1000程度に再編し、都道府県をなくして、全国を10程 度の道州に再編するとしている。  このように近年、道州制が急浮上してきたのはなぜだろうか。  都道府県を道州に再編しても現在の都道府県の役所や公務員がそのま ま残るのであれば、道州制にする意味は余りない。行政権限を現在の都 道府県の範囲を超えて広域に及ぼすというだけなら、そのような法令の 改正を行えばいいだけだからである。  実際に、複数の自治体が合同で広域事業を行うことは、すでに消防や 水道、医療等の各分野で実施されている。  その意味で、道州制は現在の都道府県の行政機構そのものをリストラ してスリム化することを前提にしていることは間違いない。特にそこで ターゲットにされているのは、社会保障のスリム化である。  日本経団連の御手洗会長の論文では、道州制は行政の「選択と集中」 であると明言されているが、これは不採算部門を切り捨てて採算部門に 資本を集中するという同氏の経営手法そのものであり、これを地方自治 体に当てはめようというものである。  国の出先機関や都道府県を解体して、社会保障の道州単位化、公務員 の削減、地方議会の縮小等を進めることにより、経団連の試算では年間 6兆円の財源が確保できるとされている。  では浮かしたお金をいったい何に使おうというのだろうか。そこで目 論まれているのは巨大インフラ整備による企業誘致である。  すなわち新自由主義的なグローバル経済の下で拠点的な経済圏を形成 するための大規模開発を容易にするために、道州経済圏をその単位にし て、効率的なインフラ投資を行うという点にある。  すでに関西や九州などでは地元の経済界が道州制導入を強力に各方面 に働きかけている。  しかし、仮に九州が単一の広域行政体に再編された場合、たとえば福 岡には資本が集中されて巨大開発が進められるかもしれないが、その一 方で鹿児島などは取り残されるおそれがあると思う。  ちょっと長くなってきたので、今回はここまでにして、以下、次回に 道州制の問題点についてみてみたい。 弁護士 福 山 和 人


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