空飛ぶ弁護士のフライト日誌 京都法律事務所
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空飛ぶ弁護士のフライト日誌

空飛ぶ弁護士のフライト日誌ログ─DAY7:グライダーの限界・時間編1

                             機長:古川美和

 「グライダーって,何分くらい飛んでられるんですか?」高度と並んで,最もよく聞か れる質問です。滞空時間(動力なしで飛んでいた時間)の世界記録は,2人乗りグライダ ーで70時間以上!です。ちょっとびっくりする数字ですよね。日本記録も,戦前に奈良 県の生駒山というところで28時間以上の記録がありますが(これは一人乗りグライダー です),戦後に整備された航空法では,計器飛行ができないグライダーは日の出前・日没 後のフライトができませんから,今では全く実現不可能な記録なんです。  動力がないグライダーが長時間飛行し続けるためには,2つの条件が揃わないとできま せん。つまり,気象条件=飛べる環境という外部要因と,飛ばす側=パイロットの技量と 気力と体力という内部要因です。  気象条件という外部要因は,意外と簡単にクリアできます。そりゃ全く上昇気流がない, 静穏な日には無理ですが(この場合は,300m〜600mくらいの高度で離脱して,滑 空して降りてくると,滞空時間は6〜10分程度です。),地上の空気が暖まって上昇す るという熱上昇気流(サーマル)でも,日本の場合早い日には午前10〜11時ころから 出始めて,16〜17時くらいまではありますから,5,6時間は飛べるわけです。滞空 時間の記録が出る場合は,風が山の斜面にぶち当たって駆け上がるときにできる斜面上昇 風(リッジ,生駒山の記録はおそらくこれでしょう)や,何と言っても前々回にお話しし た山岳波(ウエーブ)などを利用していて,これは風が吹いている限り恒常的にあります から,気力と体力さえ許せばいくらでも飛んでいられる・・・はずなんです。  しかーし,一番ポイントなのは気力と体力,人間側の問題です。長時間飛べば当然疲れ ますから,無理な力の入った操縦をしないよう普段から意識してトレーニングしたり,疲 労しにくい衣服や座席の背もたれ,クッション等を研究します。飛んでる間の食料として, 上空にバナナやカロリーメイト,ガム・飴や「おせんべい」という人もいますが,各自い ろいろ試してそのときの気温・湿度,体調等条件に合わせた物を持っていくわけです。  なかでも大問題なのが,水と排尿。夏場は水分を取らないと,脱水症状になりますから 水は飲む。飲むとトイレに行きたくなる。冬場は水がなくても困らないけど,寒くて(上 空2400mだと気温はマイナス10度くらいになります)やっぱりトイレに行きたい。 もう,この,「トイレに行きたい!」という気持ちがフライトの最後の方になると頭の9 0%くらいを占める思考になるわけです。下腹部に神経が集中して脂汗が出てくる。長距 離フライトに出ているときは,平均速度を上げるためとかじゃなくて,とにかくトイレ, トイレ,いかに早く着陸してトイレに駆け込むかを考え続けます。「いや,待てよ,降り てから歩いていって間に合うだろうか・・・。無線で車を用意しといてもらおうか。」な どと切実です。  しかし長距離じゃなくて,単に長く飛ぶ,というときは,それこそ本気のガマン大会に なります。グライダーの世界にも,技量をはかる基準となる賞のようなものがあるんです ね。国際航空連盟(FAI)が認定する国際滑空記章として,ダイヤモンド章,金章,銀 章などがあるんですが,このうちの銀章というのが,滞空時間5時間以上をクリアしない と取れない。ですから,銀章狙いの人は必ず一度は5時間以上飛ばないといけないわけで す。そして,この5時間滞空フライトこそ,日本の学生パイロットに取って一つの試金石 になるんです。私も,大変な血と汗と涙でこれを取るわけですが・・・ちょっと話が長く なりますので,この続きは次回にしたいと思います。

                           弁護士 古 川 美 和 







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