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黒澤弁護士の"知ってますか"


「ヤミ金最高裁判決〜暴利のヤミ金から借りた金は返す必要はない」

去る6月10日、指定暴力団山口組旧五菱会系のヤミ金融を巡り、愛媛県の 被害者11人が「ヤミ金の帝王」と呼ばれた梶山進に約3500万円の賠償を 求めた事件で、最高裁はヤミ金側の主張を排斥し、不当利得返還請求について ヤミ金の貸し付けた元金分を控除することは認められないとの初判断をしまし た。  民法では、公序良俗に反するような契約で渡した財産(不法原因給付)は契 約が無効であっても返還請求できないと定めています(民法708条)。最高 裁は708条の趣旨は、「社会の倫理、道徳に反する醜悪な行為に係る給付に ついては不当利得返還請求を許さない」ことにあるとし、「反倫理的行為(出 資法を遙かに超える貸付)に該当する不法行為の被害者(借主)が、これによ って損害を被るとともに、当該反倫理的行為に係る給付(貸金元本)を受けて 利益を得た場合には、同利益については、加害者(ヤミ金)からの不当利得返 還請求が許されないだけでなく、被害者(借主)からの不法行為に基づく損害 賠償請求において損益相殺ないし損益相殺的な調整の対象として被害者の損害 額から控除することも、民法708条の趣旨に反する」と断定しました。  これまで借主からヤミ金に対して不当利得返還請求を行った場合、元金も含 めて返還請求の対象となるとする全額説(今回の最高裁判決の立場)と元金に ついては返還請求の対象とならないとする差額説の対立がありました。しかし、 今回の最高裁の判断により、ヤミ金からの元金の返却が認められないことはも ちろん、借主が全額返済し終わっているケースでも、元金部分を含めてヤミ金 は全額を借り主に返済しなければならなくなりました。  このような考え方に対しては、借り主に借り得を認めるものとして反対意見 がありましたが、ヤミ金による過酷な取り立て等により、命を絶つ事例が後を 絶たない中、最高裁は借り主保護の立場に立ちました。  本判決により、ヤミ金は、貸付元本の返却等を求める法的根拠を全く失うこ とになるため、ヤミ金の資金源を絶つ方向に向けて大きな足がかりを得たこと になります。今後ヤミ金からの借入がある事案については、上記最高裁判決を 根拠に一切の返済を拒否することで解決が図れる事案が増えてくることになる と思われます。    弁護士  黒 澤 誠 司



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