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小笠原弁護士の”知っ得”



  

〜道路交通法と監視社会〜

 みなさん、こんにちは  社会の変化や時代の要請に伴って、新しい法律が制定されたり、今ある法律が改正され たりすることは、私たち弁護士ならずとも、たびたび見聞きすることがありますね。今の 通常国会で審議されている、共謀罪創設だとか、教育基本法改正だとか、憲法改正国民投 票法案などはもちろん反対ですが、法律を制定ないし改正すべき必要性が本当にある場合 には、人権保障の観点から濫用の危険性がないかどうかを十分に吟味しつつ、速やかにそ の法律の制定ないし改正がなされなければなりません。  さて、今回のテーマは、みなさんに身近な道路交通法の改正です。  この5年間の間に、道路交通法が改正されて施行されたものとして  @幼児に対するチャイルドシートの使用義務  A高速自動車国道の本線車道における最高速度の改正  B高年齢運転者のもみじマーク表示義務、身体障害者のクローバーマーク表示義務  C走行中の携帯電話の使用等に対する罰則や飲酒検知拒否に対する罰則、集団暴走行為 等に対する罰則の強化  D高速自動車国道または自動車専用道路での自動二輪車の二人乗り規制の見直し などがあります。
 これらは、交通事故による幼児、高齢者、障害者の被害を防止する必要性や、一般的な 交通事故の予防の必要性などから理解することができます。  例えば、走行中の携帯電話の使用は交通事故の原因になることもあり、非常に危険な行 為です。年間2500件以上もあった携帯電話の使用に係る交通事故が、法改正で規制し た直後の2000年に1453件と減少しましたが、その後、2001年に3040件と 増加し、その後も2002年に2847件、2003年に2597件と推移していました。 そこで、2004年改正は、携帯電話を手に持って通話したり、たとえ通話をしなくても 走行中にメールの送受信のために画面を注視しただけで、5万円以下の罰金の対象になる ように強化したのです。  さて、今回問題にしようと思うのは、2004年に公布され、本年6月から施行される、 違法駐車取締り強化を内容とする改正道路交通法です。
 違法駐車は、交通渋滞や交通事故の原因もなりますので、決して放置してよいものでは ありません。その意味で、運転者が違法駐車をしたまま放置している車両について、運転 者が反則金の納付をしない場合に、車検証上の使用者に対して放置違反金の納付を命ずる ことができること、放置違反金を納付しないときは地方税の滞納処分の例により放置違反 金を徴収することができること、放置違反金の納付を証明する書面の提示がなければ車検 を受けることができないこと、車両の使用者が繰り返し放置違反金納付命令を受けている 場合、3ヶ月を超えない範囲で車両の使用が制限されること等はやむを得ないのかも知れ ません。もっとも、公的駐車場の整備をしないまま、車両の販売促進だけは容認する政府 の政策には、大きな疑問を感じざるを得ません。
 問題は、違法駐車をしたまま放置されている車両かどうかの確認や標章の取付けに関す る事務を民間の法人に委託できるようになった点です。これまで警察官が行ってきた放置 車両の確認及び標章の取付け事務について、営利を目的とする民間の法人が警察署長から 受託して行うことにより、不当、違法な確認や標章の取付けが発生しないのかどうか、疑 問があります。また、警察署長の委託のもとに、民間の法人が、駐車監視員をして、違法 駐車かどうか、放置車両かどうかを監視し、確認し、標章を取り付けるわけですから、結 局、警察業務を拡大し、警察による監視を強化することにつながります。警察による違法 な人権侵害の事例に関わったことのある立場からすると、このような警察業務の拡大につ ながる方向には、懸念を表明せざるを得ません。また、警察による、民間の法人を通じて の監視社会が想定されますので、警察によって監視され、また、隣同士が不信と懐疑を抱 くような、そんな暗い社会になっていくのではないでしょうか。
 考えすぎだと言われかねませんが、個人情報保護条例の改「悪」や共謀罪創設等々、警 察による監視社会の構図が強まりつつある昨今の状況をみるにつけ、道路交通法もか!、 と心配せざるを得ないのです。 弁護士 小 笠 原 伸 児



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