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小笠原弁護士の”知っ得”



  

〜高齢者虐待防止・養護者支援法(続)

 みなさん、こんにちは  今回も、前回に引き続いて、高齢者への虐待防止、高齢者の養護者支援の法律について の「知っ得」です。  前回は、高齢者虐待の主な種類などについてお話ししましたので、今回は、高齢者虐待 の発生要因からお話しします。    平成15年度に実施された「家庭内における高齢者虐待に関する調査」によ    りますと、次のような項目があげられていました。     @虐待者や高齢者の性格や人格、人間関係       ・虐待をしている人の性格や人格      50.1%       ・高齢者本人と虐待者のこれまでの人間関係 48.0%       ・高齢者本人の性格や人格         38.5%     A介護負担       ・虐待者の介護疲れ            37.2%       ・高齢者本人の認知症による言動の混乱   37.0%       ・高齢者本人の身体的自立度の低さ     30.4%       ・高齢者本人の排泄介助の困難さ      25.4%     B家族・親族との関係       ・配偶者や家族・親族の無関心       25.1%     C経済的要因       ・経済的困窮               22.4%  高齢者虐待は、このように虐待者の要因、高齢者の要因、人間関係などの要因、社会環 境などの要因など、様々な要因が重なり合って発生していると思われますので、表面的に だけ見ないように、その背景にある要因を正確に把握して、虐待の実態を理解することが 大切です。  例えば、介護者が長年の介護に疲れ果てたり、将来に希望を持てなかったり、一生懸命 なあまり追いつめられていたりして虐待に至る場合は、虐待をしている人も被害者ではな いでしょうか。  ついで、虐待者・被虐待者の特徴について、お話しします。    平成15年度に実施された「家庭内における高齢者虐待に関する調査」によ    りますと、被虐待者の状況は次のとおりです。     @性別       男性 23.6%   女性 76.2%     A年齢       75〜84歳  43・3%       85〜94歳  34.3%       65〜74歳  19.2%       95歳以上    3.2%     B要介護度       要介護度3以上 51.4%       要介護度2以下 45.4%     C認知症       認知症の症状がみられる高齢者 78.3%    平成15年度に実施された「家庭内における高齢者虐待に関する調査」によ    りますと、主な虐待者の状況は次のとおりです。     @高齢者本人との続柄       息子       32.1%       息子の配偶者(嫁)20.6%       配偶者      20.3%       娘        16.3%     A性別       男性 49.9%   女性 49.8%     B年齢       40代〜おおむね64歳程度 64・4%       おおむね65歳以上     27.7%       おおむね40歳未満      7.4%     C同居・別居の状況       高齢者本人と同居 88.6%       近隣別居      8.2%       遠隔地別居     2.5%     D日常の接触時間       日中も含め常時   51.4%       日中以外は常時   27.5%       週に数日程度    6.3%       ほとんど接触なし   5.8%       月に数日程度   4.7%     E介護を行っている虐待者への介護の協力者などの有無       介護に協力してくれる者がいた   39.0%       相談相手はいるが介護協力者はなし 38.6%       介護協力者も相談相手もいなかった 17.7%    平成15年度に実施された「家庭内における高齢者虐待に関する調査」によ    りますと、虐待についての自覚は次のとおりです。     @虐待についての自覚(高齢者)       自覚がある 45.2%       自覚はない 29.8%       わからない 24.5%     A虐待についての自覚(虐待者)       自覚はない 54.1%       自覚がある 24.7%       わからない 20.4%     B高齢者から虐待についての意思表示       話すまたは何らかのサインがある 49・3%       何の反応もない         30.2%       隠そうとする          12.1%       わからない            7.3%  つぎに、高齢者虐待防止法では、国及び地方公共団体などに対する責務、役割について、 以下のように規定されています。  【国及び地方公共団体の責務】    ○関係機関や民間団体との連携の強化、民間団体の支援など必要な体制の整備    ○専門的な人材の確保及び資質向上のために関係機関の職員の研修などの措置    ○高齢者虐待にかかる通報義務、人権救済制度の広報その他の啓発活動  【国民の責務】    ○高齢者虐待の防止、養護者支援の重要性に関する理解を深め、国又は地方公     共団体が講ずる施策に協力するよう努める    ○高齢者虐待の早期発見に努め、国又は地方公共団体が講ずる施策に協力する     よう努める  【市町村の役割】   ■養護者による高齢者虐待について    ○高齢者、養護者に対する相談、指導、援助    ○通報を受けた場合の安全確認、事実確認、協力者との対応の協議    ○老人福祉法に規定する措置、成年後見制度利用開始に関する審判の請求    ○立入調査    ○立入調査の際の警察署長に対する援助要請    ○養護者の面会の制限    ○養護者に対する負担軽減のための相談、指導及び助言    ○専門的に従事する職員の確保    ○関係機関、民間団体との連携協力体制の整備    ○対応窓口、対応協力者の名称の周知   ■養介護施設従事者などによる高齢者虐待について    ○対応窓口の周知    ○通報を受けた場合の事実確認など    ○都道府県への報告    ○老人福祉法又は介護保険法に規定する権限の適切な行使   ■財産上の不当取引による被害防止    ○第三者による財産上の不当取引の被害に関する相談の受付、関係部局の紹介    ○財産上の不当取引の被害を受け、受けるおそれのある高齢者に係る審判請求  【都道府県の役割】   ■養護者による高齢者虐待について    ○市町村が行う措置の実施に関し、連絡調整、情報提供その他必要な援助    ○市町村に対する必要な助言   ■養介護施設従事者などによる高齢者虐待について    ○老人福祉法又は介護保険法に規定する権限の適切な行使    ○虐待の状況、対応措置などの公表  【国及び地方公共団体の役割】    ○事例分析を行い、適切な対応方法や養護の方法その他必要事項の調査研究    ○成年後見制度の周知及び利用に係る経済的負担の軽減措置  【養介護施設の設置者及び養介護事業者の責務】    ○従事者に対する研修の実施、苦情処理体制の整備その他虐待防止措置  このように、高齢者虐待防止法は、地域住民に最も身近な市町村や都道府県を具体的な 対策の担い手として明確に位置づけ、高齢者虐待の早期発見・早期対応を図るとともに、 養護者の支援を行い、その負担の軽減を図ることとしています。  また、高齢者虐待の防止・養護者支援の制度のあり方については、この法律施行後3年 を目途として、あらためて検討し直すことが予定されています。 弁護士 小 笠 原 伸 児



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