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小笠原弁護士の”知っ得”



  

〜預金者保護法

 みなさん、こんにちは  今年の夏の高校野球は本当に熱いですね。久しぶりにじっくり見た試合が、駒澤大 学附属苫小牧高等学校と早稲田大学系属早稲田実業学校との決勝戦でした。夏の三連 覇を狙う優勝候補筆頭の駒大苫小牧と東京の古豪で投手を軸に勝ち抜いてきた早稲田 実業とが、がっぷり四つに組んでの試合は、八回の表裏にそれぞれ1点を上げ、その まま15回まで両者譲らず、37年ぶりの決勝戦引き分け再試合になりました。こん な試合を2回も見ることができるなんて、私たちは幸せですね。選手の皆さんには、 感謝、感謝です。と言っても、私は仕事があるために観戦できませんが・・・。  さて、今回の「知っ得」のテーマは、偽造カード等や盗難カード等によって不正に 預貯金の払戻し等がなされた場合の、預貯金者の保護に関する法律についてです。 ■ 老若男女、ほとんどの人が金融機関のキャッシュカード等を利用していることと  思いますが、最近、このキャッシュカード等がスキミングやフィッシングと呼ばれ  る手口によって偽造されたり、あるいは盗取されたりして不正な払戻しや借入れが  なされ、預貯金者の口座から金員が引き出されるという被害が多発していました。   警察庁の調べによると、2004年度の偽造・盗難キャッシュカードによるAT  Mからの不正引出は、全国で3448件、被害金額で24億249万円に上ってい  ます。   また、全国銀行協会の、偽造キャッシュカードによる被害調査によると、200  3年度に、会員181行で100件、2億9000万円だった被害が、2004年  度には411件、9億6800万円と大幅に拡大しています。   しかし、金融庁の実態調査結果(平成12年度から平成16年度上半期)によれ  ば、預貯金者が補償を受けていないのは84.6%となっており、8割以上の預貯  金者が泣き寝入り状態になっていました。   そこで、預貯金者の保護を図り、預貯金に対する信頼を確保し、もって国民経済  の健全な発展及び国民生活の安定に資することを目的とする「偽造カード等及び盗  難カード等を用いて行われる不正な機械式預貯金払戻し等からの預貯金者の保護等  に関する法律」が昨年8月に制定され、本年2月10日から施行されています。 ■ まず、この法律で使用されている言葉の意味について説明します。  【金融機関】とは    銀行、信用金庫、信用金庫連合会、労働金庫、労働金庫連合会、信用協同組合、   信用協同組合連合会、農業協同組合、農業協同組合連合会、漁業協同組合、漁業   協同組合連合会、水産加工業協同組合、水産加工業協同組合連合会、農林中央金   庫、商工組合中央金庫、日本郵政公社 ↓    おなじみの京都銀行とか京都中央信用金庫、京都信用金庫等が含まれます。  【真正カード等】とは    預貯金等契約(預貯金の預入れ及び引出しに係る契約又はこれらに併せて金銭   の借入れに係る事項を含む契約)に基づき預貯金者に交付された預貯金の引出用   のカード又は預貯金通帳(金銭の借入れをするための機能を併せ有するものを含   む、以下「カード等」という)    ↓    金融機関から交付されたキャッシュカードだけでなく預貯金通帳も対象となっ   ていますし、キャッシュサービスを受けられるカードや通帳も含まれます。  【偽造カード等】とは    真正カード等以外のカード等その他これに類似するもの ↓    金融機関から交付された真正なカードそのものではない偽造されたものです。  【盗難カード等】とは    盗取された真正カード等 ↓    金融機関から交付された真正なカードそのものではあるが、預貯金者が盗取さ   れたものです。  【機械式預貯金払戻し】とは    金融機関と預貯金者との間において締結された預貯金等契約に基づき行われる    現金自動支払機による預貯金の払戻し ↓    ATMを使用しての払戻しです。  【機械式金銭借入れ】とは    金融機関と預貯金者との間において締結された預貯金等契約に基づき行われる   現金自動支払機による金銭の借入れ ↓    ATMを使用しての借入れです。  【機械式預貯金払戻し等】とは    機械式預貯金払戻し及び機械式金銭借入れ ■ つぎに、真正カード等以外のカード等その他これに類似するものを用いて行われ  た機械式払戻し等については、民法478条の規定を適用しないとされています。  【民法478条適用除外の意味】    金融機関がカード等による払戻しに応じる行為は、預貯金者に対する弁済行為   です。そして、弁済行為が有効であるためには、真の預貯金者に対する弁済行為   でなければなりません。カード等を偽造したり、盗取したりした第三者に対する   弁済行為は無効となるのが原則です。    これに対し、民法478条は、外形上、真の預貯金者と見られれるような第三   者に対する弁済行為につき、金融機関がその第三者を真の預貯金者であると信じ、   信じたことについて過失がない場合には、その弁済行為を有効であるとする例外   規定です。    預金者保護法が制定されるまでは、偽造カードによって預貯金が不正に引き出   された場合、真正カードと同様のカード情報を有するカードを持ち、暗証番号を   知っている第三者は真の預貯金者と見られる外観があるため、この民法478条   を適用(ないし類推適用)して、預貯金者への弁済として有効であるとされてい   ました。    そこで、本法によって民法478条の特例を定め、真正カード等以外のカード   等その他これに類似するものを用いて行われた機械式払戻し等については民法4   78条の規定を適用しないとし、預貯金者の保護を図ったのです。 ★ 次回に、この法律に基づく預貯金者保護の具体的内容についてお話しします。 弁護士 小 笠 原 伸 児  



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