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小笠原弁護士の”知っ得”



  

法〜預金者保護法(続)

 みなさん、こんにちは  前回にお伝えしましたように、今回の「知っ得」のテーマも、偽造カード等や盗難カー ド等によって不正に預貯金の払戻し等がなされた場合の預貯金者の保護に関する法律です。 今回は、具体的な被害補償の内容についてお話しします。 ■ 偽造カードによる機械式預貯金払戻し等の場合   カードを偽造された場合、一般的には、偽造された預貯金者よりも、偽造されるよう  なカードを作成した金融機関の側に、より責任を負わせることが適当です。   そこで    @預貯金者の故意により払戻し等が行われたとき     又は    A払戻し等について金融機関が善意無過失であり、預貯金者の重過失により払戻等    が行われたとき   に限り、預貯金者が責任を負います。つまり被害補償はありません。   逆に、上記@にもAにも該当しない場合には、全額補償されます。    【預貯金者の故意】とは      預貯金者が、偽造カードによって払戻し等が行われたことを認識し、認容して     いることです。      第三者が偽造カードを利用して払戻等を行ったことを、預貯金者自身がわかっ     ていて、それを認めているわけですから、預貯金者が責任を負うことはやむを得     ませんね。    【金融機関の善意無過失】とは      金融機関が、偽造カードによって払戻し等が行われたことを知らず、知らない     ことについて無過失つまり通常の注意義務を尽くしても知り得ないことです。      例えば、金融機関の過失の例として      ●金融機関が、預貯金者から偽造カードを作成された旨の通知を受けて必要な       措置を講じていなかった場合      があります。    【預貯金者の重過失】とは      預貯金者が、故意に準ずるような重大な過失つまりちょっと注意すれば偽造カ     ードによる払戻し等を防ぐことができたにもかかわらずその注意を怠ることです。      暗証番号やキャッシュカードの管理状況等から判断されます。      例えば      ●預金者が第三者に暗証番号を教えていた場合      ●預金者が第三者にキャッシュカードを渡した場合      ●キャッシュカード上に暗証番号を書き込んでいた場合      があります。 ■ 盗難カードによる機械式預貯金払戻し等の場合   カードを盗取された場合、一般的には、盗取された預貯金者の側に落ち度があります  から、金融機関よりも預貯金者の側に、より責任が重くなります。   以下は、機械式預貯金払戻しによる被害に対する補償としての補填(金融機関が預貯  金者に対して払戻被害相当額を補填する)の説明ですが、機械式金銭借入れによる被害  に対する補償としての支払請求不可(金融機関は預貯金者に対して借入被害相当額の支  払を請求することができない)の場合も同じです。  ▲ まず、預貯金者は、盗難カードによる払戻しの額に相当する金額の補填を求めるた   めには、次の要件を満たしていることが必要です。     @カードが盗取されたことを知った預貯金者が速やかに金融機関宛に盗取の通知     を行ったこと     A金融機関の求めに応じて、盗難状況の十分な説明を行ったこと     B金融機関に対して、捜査機関(警察署や検察庁)に盗取の届出(被害届とか告     訴状等)をしていることを申し出たことその他盗取が行われたことが推測される     事実として内閣府令が定めるものを示したこと    つまり、預貯金者は、カードが盗難にあったことを知った場合には、速やかに金融   機関にその事実を通知し、求められた場合には盗難状況を十分に説明し、同時に、警   察署や検察庁に被害届や告訴状を提出する等の措置を行っておく必要があります。  ▲ これに対し、金融機関は、次の事実を証明した場合を除き、払戻しの額に相当する   金額(補填対象額)を全額補填しなければなりません。     @盗難カードによる不正な払戻しではないこと     A預貯金者の故意により払戻しが行われたこと     B盗難カードによる不正な払戻しについて金融機関が善意無過失であり、かつ次      のいずれかに該当すること      @)預貯金者の重大な過失により払戻がなされたこと      A)預貯金者の配偶者、二親等内の親族、同居の親族その他の同居人又は家事        使用人により払戻しがなされたこと      B)預貯金者が、金融機関に対する盗難状況の説明において、重要な事項につ        いて偽りの説明を行ったこと     Cカードの盗取が戦争、暴動等による著しい社会秩序の混乱に乗じ、又はこれに      付随して行われたこと      【二親等内の親族、同居の親族その他の同居人、家事使用人】とは        あなたから見て、あなたの実の両親、子ども、義理の両親、配偶者の子ど       も等が二親等内の親族に該当します。これらの者は、身分関係が近いという       ことで、同居していなくても、例外の要件にあたることになっています。        親族は、六親等内の血族、配偶者及び三親等内の姻族とされていますので、       あなたから見て、例えばご両親や祖父母、兄弟姉妹、甥姪、いとこ等が同居       している場合には「同居の親族」に該当します。        また、同居人とありますので、身分関係がなくても、同居しているという       事実だけから例外の要件にあたることになっています。        家事使用人の範囲の判断はそれほど簡単ではありません。一般的には恒常       的に家事全般を担当している者と解するのが適切であり、一時的あるいは家       事の一部だけを担っている使用人まで含ましめることは適切ではありません。       例えば、ホームヘルパーであるとか清掃業者とかは、あくまで一時的で家事       の一部だけを担当する者ですから、ここにいう家事使用人には該当しないと       いうべきでしょう。  ▲ 但し、金融機関が次のことを証明した場合は、その補填額は補填対象額の4分の3   に減額されます。     @払戻しについて金融機関が善意無過失であること     A預貯金者の過失(重過失を除く)により払戻しが行われたこと     【預貯金者の過失】とは       預貯金者が、盗難カードによって払戻しが行われたことを知らないことにつ      いて、一般的に求められる注意義務を尽くせば知り得たであろうことです。       ここでも暗証番号やキャッシュカードの管理状況等から判断されます。       例えば       ●暗証番号を生年月日や電話番号など推測されやすい番号にしていて、金融        機関から変更を促されていたにもかかわらず変えずに放置し、それらの番        号を推測させる免許証や保険証などと一緒にカードを保管していて、それ        らを一緒に盗まれた場合       ●第三者が容易に暗証番号であるとわかるように書き記したメモと一緒にカ        ードを保管していて、それらを一緒に盗まれた場合  ▲ 補填対象額は、カードが盗取されたことを知った預貯金者が、金融機関宛に盗取の   通知を行った日の30日前の日以降になされた払戻しの額に相当する金額です。    但し、預貯金者が、カードが盗取された日以後30日を経過する日までの期間内に   通知をすることができなかったことについてやむを得ない特別の事情があることを証   明したときは、30日にその特別事情が継続している期間の日数を加算した日数の前   の日以降になされた払戻しの額に相当する金額となります。    もっとも、カードが盗取された日以降の払戻しの額に相当する金額であることはい   うまでもありません。  ▲ カードが盗取されたことを知った預貯金者が金融機関宛に盗取の通知を行った日が、   盗取された日から2年を経過していた場合には、証拠も散逸し、事実関係の立証が困   難になっていることに鑑み、補填を求めることはできません。 弁護士 小 笠 原 伸 児  



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