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小笠原弁護士の”知っ得”



  

〜自殺対策基本法

 みなさん、こんにちは  日本の年間自殺者の数は8年連続で3万人を上回っており、自殺未遂はその10倍以上 あるといわれています。そうした深刻な事態を背景にして、2006年6月21日、自殺 対策基本法が成立しました。本年最後の「知っ得」ではその新法を取り上げます。 ■自殺の実態及び背景  日本では、1998年から連続して「年間自殺者3万人」という異常な事態が続いてい ます。この数字は、交通事故死者のおよそ5倍にものぼっており、自殺率は先進国の中で も最悪の率(米国の約2倍、英国の約3倍)になっています。また、自殺未遂者は既遂者 のおよそ10倍といわれていますので、30万人以上にのぼります。  そして、ひとりの自殺や自殺未遂が親族ら周囲の5〜6人に深刻な心理的影響を与えて いるといわれますので、年間165万〜200万人が自殺(自殺未遂)による深刻な心理 的影響を受けていることになります。  自殺の背景にあるものとして日本で特徴的なのは、高齢者介護、多重債務、過重労働そ して学校いじめです。他にも、リストラ、職場いじめ、差別、虐待、DV、育児の悩み等、 日常的な問題の深刻化の中で精神的に追い詰められて自殺、つまり、自殺の多くは追い詰 められた末の死なのです。 ■自殺対策基本法の概要   ◇目的(第1条)      自殺対策を総合的に推進して、自殺の防止を図り、あわせて自殺者の親族        等に対する支援の充実を図り、もって国民が健康で生きがいを持って暮ら        すことのできる社会の実現に寄与すること ↓      自殺防止と自殺者親族支援により、健康で生きがいのある生存を保障しよ        うというもの   ◇基本理念(第2条)      @)自殺が個人的な問題としてのみとらえられるべきものではなく、その          背景に様々な社会的な要因があることを踏まえ、社会的な取組として          実施されなければならない ↓        自殺を社会問題として位置づけています      A)自殺が多様かつ複合的な原因及び背景を有するものであることを踏ま          え、単に精神保健的観点からのみならず、自殺の実態に即して実施さ          れるようにしなければならない ↓        実態に即した対策を求めています      B)自殺の事前予防、自殺発生の危機への対応及び自殺が発生した後又は          自殺が未遂に終わった後の事後対応の各段階に応じた効果的な施策と          して実施されなければならない ↓        各段階に応じた効果的な施策を求めています      C)国、地方公共団体、医療機関、事業主、学校、自殺の防止等に関する          活動を行う民間の団体その他の関係する者の相互の密接な連携の下に          実施されなければならない ↓        関係者の密接な連携の下での実施を求めています   ◇国と地方公共団体の責務(第3、4条)      国は、自殺対策を総合的に策定、実施する責務を有し、地方公共団体は、        国と協力しつつ、地域の状況に応じた施策を策定、実施する責務を有する ↓      自殺対策は、国や地方公共団体の責務であるとしています   ◇事業主の責務(第5条)      国や地方公共団体の自殺対策に協力するとともに、その雇用する労働者の        心の健康の保持を図るため必要な措置を講ずるよう努めるものとする   ◇政府の対応(第8乃至10条)      @)基本的かつ総合的な自殺対策大綱の策定      A)法制上又は財政上の措置      B)国会への年次報告   ◇国及び地方公共団体の基本的施策(第11乃至19条)      @)調査研究の推進、情報の収集、整理、分析、提供等      A)国民の理解の増進      B)人材の確保、養成、資質向上等      C)心の健康保持に係る体制の整備      D)医療提供体制の整備      E)自殺発生回避のための体制の整備等      F)自殺未遂者、自殺者親族等に対する支援      G)民間団体の活動支援   ◇内閣府に関係閣僚をメンバーとする自殺総合対策会議を設置(第3章) ■課題  このように、自殺対策基本法は、自殺を、個人の問題だけではなく社会の問題でもある と位置づけ、健康で生きがいのある生存を保障する自殺対策の基本法です。そして、自殺 対策の基本理念を定め、国や地方公共団体の責務を明確にし、対策の基本となる事項を定 めており、極めて重要な第一歩であると評価することができます。  これからの課題は、国がどのような自殺対策の全体構想を構築していくのか、そのもと で、国や地方公共団体あるいは民間団体がどのように連携し、どのような役割を担ってい くのか、そのことの具体化にかかっています。  自殺に追い詰められる人たちをなくし、自殺で家族を亡くした人たちを支え、健康で生 きがいのある暮らしのできる社会の実現に向けて、この法律が大きく役割を果たせるよう、 私たちも力を尽くしていくことが求められているのだと思います。                     弁護士 小 笠 原 伸 児



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