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小笠原弁護士の”知っ得”



  

〜遺言による保険金受取人変更

 みなさん、こんにちは  桜も散って、代わりに青葉が目に鮮やかな季節となりました。賀茂川の中州には、見事 な菜の花の満開模様を見ることができます。1年の中でも、本当にいい時季になりました。  さて、今回は、遺言で生命保険金の受取人を変更した場合に、新しい受取人は生命保険 金を請求することができるのかについて、判例の見解をお話しをします。 ■事件の発生  Aさんの遺言で生命保険金2500万円の受取人になったBさんが、受取人が自分に変 更されたことを保険会社に通知しました。ところが、保険会社は、保険金の受取人は、当 初の受取人であるCさんであるとして、Bさんへ保険金を支払うことを拒否しました。そ こで、Bさんは保険金の支払いを求めて提訴しました。 ■問題の所在  生命保険金の受取人を指定したり、変更したりすることは、保険契約者の一方的な意思 表示によってすることができます。問題は、保険契約者が遺言によって保険金受取人を変 更することができるのかです。 ■否定する見解  これを否定する見解もあります。死亡保険金請求権は相続財産に属さないから遺言によ って処分できないとか、死亡保険金請求権が死亡によって具体化した後の受取人の変更は できないから、等という見解等です。 ■判例の見解  しかし、東京地方裁判所(平成9年9月30日判決)もその控訴審である東京高等裁判 所(平成10年3月25日判決)も、これを肯定しました。保険金の受取人の指定や変更 は保険契約者の一方的意思表示のよってなしうること、遺言の要式性に鑑みると受取人変 更の意思表示は、遺言により確定的に成立したと認めることができること、遺言の性質上、 その効力は遺言者の死亡によって生ずることになるが、保険会社としては、その通知があ るまでは受取人の変更を対抗されることはないから、特段の不利益を受けることはないこ と、等の理由からでした。  遺言は、保険契約者の死亡と同時に効力を生ずるのであり、遺言で定められた意思表示 の内容は、死者の最終かつ確定的な意思表示として、それ以前の意思表示を変更する効力 を有するのであり、このような遺言の性質を考えると、遺言により保険金の受取人の変更 の意思表示がなされた場合には、死亡と同時にこの意思表示が死者の最終かつ確定的な意 思表示として効力を生じ、遺言のとおりに死亡保険金の受取人が変更されるものと認める のが相当である、というのが実質的な理由です。                     弁護士 小 笠 原 伸 児  



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