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小笠原弁護士の”知っ得”



  

〜憲法改正国民投票法附帯決議その1

 みなさん、こんにちは  先日、自由法曹団の全国集会が熊本県阿蘇市で開催され、行ってまいりました。私の第 二の故郷が熊本県八代市でしたので、ちょっと寄り道をしてみようかなあと思いましたが、 またの機会にすることにしました。  さて、今回は、その全国集会でも話題になりました憲法改正国民投票法について、参議 院憲法調査特別委員会がつけました18もの附帯決議の内容に踏み込んで、お話しをして みたいと思います。 ■そもそも憲法改正国民投票法とは  正式には、日本国憲法の改正手続に関する法律(案)と言います。憲法96条の規定に よりますと、現憲法を改正するためには、各議院の総議員の3分の2以上の賛成で国会が 発議し、国民投票において、その過半数の賛成を経て、国民の承認を経なければならない とされています。この国民投票の手続を定めようというのが、この憲法改正国民投票法 (案)なのです。  私自身は、今の時点で現憲法を改正する必要性はないので、このような国民投票法は不 要であると考えています。  また、今、憲法改正国民投票法を制定しようする人たちは、憲法9条を変えて、日本が 戦争をすることのできる「美しい国」にすることが目的ですし、私自身は、憲法9条を変 えて戦争する国(このような国は決して「美しい国」とは言えません)にすることには反 対であって、その目的自体にも反対ですので、今回の憲法改正国民投票法(案)の制定自 体に反対です。  しかし、国会で可決、成立されましたので、成立した憲法改正国民投票法に無関心では いられません。  そこで、憲法改正国民投票法に附帯する18もの決議に限って、これからお話ししたい と思います。 ■国民投票の対象・範囲に関する決議  これは、憲法改正国民投票法が、憲法96条に定める憲法改正について国民の承認に係 る投票に関する手続を定めているけれども、それ以外に、国政に関する重大な点について も国民投票にかける必要性があるのではないかという民主党の議論を踏まえての決議であ り、民主党へのリップサービス的決議に過ぎません。 ■成年年齢に関する公選法、民法等の関連法令に関する決議  憲法改正国民投票法第3条は、日本国民で年齢満18年以上の者は国民投票の投票権を 有すると規定しながらも、附則第3条で、この法律が施行されるまでの間に年齢満18年 以上満20年未満の者が国政選挙に参加することができるよう、公選法や民法その他の法 令の規定に検討を加え、必要な法制上の措置を講ずるとし、それまでの間、第3条の「満 18年以上」を「満20年以上」とすると規定したこと受けての決議です。  しかし、結局、18歳選挙権が実現されるまでは、現行どおりの20歳までしか憲法改 正国民投票の投票権を有しないことになります。 ■憲法改正原案の発議の際の内容に関する関連性の判断に関する決議  憲法改正国民投票法第47条は、投票は国民投票に係る憲法改正案ごとに一人一票に限 るとし、同法第151条、国会法第68条の3は、憲法改正原案の発議に当たっては内容 において関連する事項ごとに区分して行うと規定しています。  この「内容において関連する事項」かどうかの判断基準をめぐって、そもそも国民投票 はできるだけ個別投票にすべきであって、一括投票は避けるべきであるという国会での議 論を踏まえ、規定はそのままにしてなされた決議です。  しかし、この決議自体が、内容に関する関連性の判断は、その判断基準を明らかにするとともに外部有識者の意見も踏まえ、適切かつ慎重に行うこととしていることからもお判りのように、この論点に関しては、結論を先延ばしにしたに過ぎず、できるだけ個別投票にすべきであるという議論を尊重した法律の規定には「しなかった」と言わざるを得ません。  本来、国会で審議される法律案については、様々な観点から十分に議論し、その議論を踏まえて法律案を精査し、条文化すべきであることは言うまでもありません。その意味で、この決議は、法律の条文化を手抜きしましたと宣言するに等しいと言わざるを得ませんね。 ■最低投票率制度に関する決議  この決議には本当に驚かされますよ。  この決議は次のように言っています。     低投票率により憲法改正の正当性に疑義が生じないよう、憲法審査会において本    法施行までに最低投票率制度の意義・是非について検討を加えること  お判りいただけますか。  低投票率により憲法改正の正当性に疑義が生じないよう、とありますね。つまり、現行 国民投票法のままでいくと、投票率が低い場合、投票権者総数に比して極めて低い率の賛 成票によって「憲法改正」に対する国民の「承認」があったことになり、そのことが憲法 改正の正当性に疑義を生じさせると言っているのです。  例えば、投票率がおよそ40%程度の場合、憲法改正原案に対する賛成票が20%を切 っていても賛成「多数」となりうるわけで、投票権者の2割に満たない人たちの賛成によ って「憲法改正」が承認される、このことは、憲法改正権者である「国民」の「承認」を 得たと本当に認めることができるのかどうか、その「憲法改正」が本当に正当なものと認 めることができるのかどうか、つまり憲法改正の「正当性」に疑義が生じると言っている わけです。  だったら、どうして憲法改正の正当性に疑義を生じさせかねない規定のまま、法案を可 決、成立させたのか、どうしてその疑念を払拭するように法律案を精査し、条文化しなか ったのか、全く、国会の怠慢だと言わざるを得ませんね。  与党の国会議員は、安倍晋三内閣総理大臣兼自民党党首の意向に唯々諾々と従い、国会 議員としての自らの職責を怠り、無理やり憲法改正国民投票法を成立させたというべきで はないでしょうか。  国会議員にも憲法尊重擁護義務がありますよね、この法律に賛成した国会議員の憲法尊 重擁護義務って、いったいどこへ行ってしまったんでしょうね。                     弁護士 小 笠 原 伸 児



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