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小笠原弁護士の”知っ得”



  

〜 陸上自衛隊情報保全隊による情報収集活動

 みなさん、こんにちは  いよいよ参議院選挙ですね。今回の選挙で当選する参議院議員の任期は6年ですから、 憲法改「正」案を発議する可能性のある際の参議院の構成議員を選ぶ選挙となるかもしれ ません。与党が過半数を割るのかどうかという数を焦点としてとりあげるマスコミも多い のですけれど、最大の焦点は、憲法9条の改「正」をすすめる議員を選ぶのか、それとも これにキッパリとNO!の言える護憲の議員を選ぶのか、でしょう。  しっかり、自分の頭で考えて一票を投じましょうね。  さて、この参議院選挙には、自衛隊のイラク派遣で名をはせた、髭の「佐藤」隊長も立 候補していますので、今回は、陸上自衛隊情報保全隊による国民監視活動についてお話し したいと思います。 ■ ことの発端は、日本共産党が、陸上自衛隊情報保全隊が作成した内部資料を入手した  として記者会見し、その内部資料を公開したことでした。   その内部資料を見ますと、自衛隊をイラクに派遣することに反対する個人や市民団体、  労働組合、政党などの活動を監視して、その情報を系統的に収集・分析していたことが  わかります。   対象とされた団体には、地方自治体の議会や沖縄弁護士会も含まれており、私も共同  代表の一人となっている、STOP!イラク派兵・京都という市民団体も対象にされて  いました。   政府は、この文書の真贋についてコメントしておりませんが、そうした情報収集活動  を行っていたことを認めていますし、全くの捏造だとは言えない内容にもなっています  ので、真正な内部文書であることはおそらく間違いないと思われます。 ■ STOP!イラク派兵・京都の場合、2箇所に記載がされています。いずれも、具体  的な日時が分刻みで記載され、参加人数も880名とか320名とか、十の桁まで細か  く記載され、集会での訴えの内容やデモの際のシュプレヒコールの内容なども具体的に  記載されています。いずれも、ほぼ正確な内容になっています。   これだけ詳しく、具体的に記載しようと思えば、私たちの集会やデモに一緒に参加し  てメモをするか、それともどこかの陰でメモをするかの、どちらかでしょうが、どちら  にしても、身分を隠してこっそりとメモをしていたものと思われます。   私は、自衛隊員の方であっても、集会やデモに一緒に参加していただける方は大歓迎  ですけれども、身分を隠してこっそりとメモをしていたとなると、とても大歓迎などと  は言っておられません。   私たちの知らないところで、集会やデモの近くの陰にいて、ないしは中に紛れ込んで  、陸上自衛隊の情報保全隊が、身分を隠してこっそりとメモをとっていた、そして収集  された情報が防衛大臣直轄の情報保全隊へ集積され、分析されて、各地の自衛隊幹部へ  内部資料として配布されていた、ということになると、まるで私たちが「やってはいけ  ない」集会やデモをしていたように理解され、そのような集会やデモには参加しないよ  うにしようというように、私たちの集会やデモへの参加を萎縮させる効果があります。   これは、憲法21条が保障する表現の自由に対する制限行為であって、必要かつ合理  的な理由のない限り、憲法違反の国家行為となります。 ■ 防衛省の森屋武昌事務次官は、公表された内部文書について「イラクに派遣される隊  員が不安に感じ、家族が動揺することのないようさまざまな調査を行ない・・・」など  と説明して、自衛隊のイラク派遣に反対することが、あたかも自衛隊員やその家族に不  安を与えているかのように描き出しています。しかし、そうではありません。   自衛隊員やその家族が心配しているのは、イラクへ派遣された自衛隊員が死にはしな  いだろうかとか、健康を害しはしないだろうかとか、ケガはしないだろうかとか、そう  いう心配です。ですから、既に泥沼と化して、激しい戦闘状態にあるイラクへ派遣させ  られているからこそ、生命や身体の安全に対する不安を抱いているのであって、その責  任は、派遣地域が戦闘地域ではない等と詭弁を弄して自衛隊員を派遣している政府にあ  るのではないでしょうか。   自衛隊のあり方や活動については様々な意見がありますし、私は、今の自衛隊は憲法  が所持を禁じている戦力に該当するので憲法違反の存在であると思っています。ですけ  れども、自衛隊を合憲だと思っている方も含めて、STOP!イラク派兵・京都に参加  している私たちは、自衛隊をイラクへ派遣することには反対しようという一致点で活動  しています。そして、自衛隊をイラクへ派遣させるなとか、派遣された自衛隊を直ちに  撤退させようという私たちの運動は、自衛隊員の命とか、健康とか、身体の安全を尊重  する運動であって、自衛隊員やその家族の不安を解消しこそすれ、不安を与えている等  といわれる筋合いは全くありません。   ですから、私たちの集会やデモについて、身分を隠してこっそりとメモしなければな  らないような必要性や合理性は全くありません。 ■ しかも、陸上自衛隊の情報保全隊による情報収集活動は、自衛隊が私たちの集会やデ  モに関与し、表現の自由を制限するものですから、そうした活動を認める何らかの法律  上の根拠が必要です。しかし、防衛省設置法及び自衛隊法施行令並びに陸上自衛隊情報  保全隊に関する訓令には、私たちの集会やデモについて情報収集することができるとい  う規定は全く明記されていません。   また、私たちに対する情報収集活動が、自衛隊法に定められた自衛隊の任務に含まれ  るとは到底理解されません。   そうすると、陸上自衛隊情報保全隊は、法令に基づかないで、身分を隠してこっそり  と私たちの集会やデモについて情報収集していたことになります。   国家の組織が個人の基本的人権を制限する行為をするには、国会が制定する法律にそ  の根拠がなければなりません。これは、国民主権、民主主義の原則に基づく基本的な要  請です。   また、武力を有する実力組織としての自衛隊の活動は、文民統制ないしシビリアンコ  ントロールに服さなければなりません。でなければ、軍事組織によって国家統治組織が  解体され、軍事独裁政治が誕生し、私たちの自由や権利が蹂躙されてしまうからです。  文民統制ないしシビリアンコントロールの典型は、法律に基づいて統制されるというこ  とです。   そうすると、陸上自衛隊情報保全隊が法律に基づかないで、その身分を隠してこっそ  りと私たちの集会やデモをメモすることは、国民主権、民主主義の原則や文民統制ない  しシビリアンコントロールを踏みにじる、重大な違法活動だと言わなければなりません。 ■ また、陸上自衛隊情報保全隊は、私たちの自衛隊イラク派遣反対の集会やデモが「反  自衛隊活動」であると決めつけていますが、そもそも、自衛隊をイラクへ派遣すること  自体の是非は政治が考え、判断し、決めるべき問題です。そして、派遣することになる  にせよ、派遣しないことになるにせよ、自衛隊自身はその結論に従うのが、先ほどの国  民主権、民主主義の原則や文民統制の原則のはずです。   政治が判断すべき問題に、武力を持つ実力組織としての自衛隊が関与し、その一方の  見解に基づく運動を反自衛隊活動であると決めつけ、これらの運動に関する情報を収集  し、分析し、その運動を注視している現状を見るとき、私は、自衛隊が私たちの自由や  権利を抑圧する組織に変化していくことをおそれます。   なぜなら、私たちの国は、かつて、軍隊内の警察に過ぎなかった憲兵隊がやがて国民  を監視し、自由や権利を抑圧する組織へと転化していった過去の歴史をもっているから  です。また、最近では、海上自衛隊の掃海母艦ぶんごが、辺野古への米軍基地建設に反  対する市民運動を威圧するために派遣された現実の事態があるからです。   日本の政権党である自由民主党が、自衛隊を軍隊にするという憲法改「正」案を掲げ  、現在の安倍晋三内閣が憲法改「正」を最大の政治課題にしている現状を考えるとき、  武力を有する実力組織としての自衛隊が、戦争をする国の軍隊として、私たちに銃口を  向けるような事態になることだけは、絶対に許してはならないと思います。                     弁護士 小 笠 原 伸 児  



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