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小笠原弁護士の”知っ得”



  

〜駆けつけ警護問題

 みなさん、こんにちは  本当に暑いですねえ、今年の夏は。観測史上最高気温の40.9度を記録したそうです が、この暑さのおかげで熱中症にかかって倒れた人が沢山出たそうです。以前にライフス ペースという団体がセミナーの参加者にいわゆる風呂行をさせて熱中症で死亡させた事件 を被害者側で担当したことがありますが、大変に危険な病気ですから、皆さんも十分に気 をつけてください。  さて、前回は、髭の佐藤隊長を引き合いに出して陸上自衛隊情報保全隊による国民監視 活動についてでしたが、その髭の佐藤正久参議院議員が発言して大問題になっている駆け つけ警護問題についてお話しすることにします。 ■ ことの発端は、8月10日のTBSニュースの報道でした。  この報道は、集団的自衛権に関する政府の有識者懇談会で、これまで憲法上はできない とされてきた駆けつけ警護を認めるべきだとする意見で一致したことを報じたものでした。 駆けつけ警護とは、味方である他国の軍隊が攻撃された場合、駆けつけて応戦することで、 これまでは正当防衛を超える集団的自衛権の行使にあたるとして憲法違反とされてきたも のです。  その報道の際、JNNの取材に応じた佐藤正久議員は、次のように発言しました。  自衛隊とオランダ軍が近くの地域で活動していたら、何らかの対応をしなかったら、自 衛隊への批判がものすごく出ると思います。オランダ軍が攻撃を受けたなら、情報収集の 名目で現場に駆けつけ、あえて巻き込まれる。巻き込まれなかったら正当防衛の状況はつ くれませんから。普通に考えて手をさしのべるべきだという時は警護に行ったと思う。そ の代わり、日本の法律で裁かれるのであれば喜んで裁かれてやろうと。 ■ 自衛隊の部隊の自衛官は、武器等を防護するないし自己等を防護するためにやむを得 ない必要があると認められる相当の理由がある場合で、その事態に応じて合理的に必要と 判断される限度でのみ、武器を使用することができるとされています。  イラク特措法の場合は、自分が攻撃を受けた時か、現場にいる他の自衛隊員か、イラク 復興支援職員か、職務を行うに伴い自分の管理の下に入った者が攻撃を受けた時に、武器 を使用することができるとされています。  これに対し、現場から離れたところで、他国の軍隊が攻撃を受けた場合、その現場に駆 けつけて救援活動として武器を使用することは、それが組織的な救援活動の場合は武力の 行使に該当し、また、他国の武力行使と一体化するものと評価され、憲法上、許されませ ん。これが駆けつけ警護が禁止されてきた理由です。 ■ 今回、佐藤正久議員が発言したのは、この駆けつけ警護をするつもりであったという  ものです。    そのやり方として   @)オランダ軍が現場から離れたところで攻撃を受けた   A)警護目的で駆けつけて武器を使用することはできない   B)情報収集の目的で駆けつけることにする      ※口実ですね 後から国民にはこのように説明するのでしょう 軍隊の       嘘のつき方がよくわかりますね   C)駆けつけたら現場で攻撃を受ける可能性がある   D)その現場で攻撃を受けたら武器を使用することができる     というものです。   つまり、あえて巻き込まれて、巻き込まれさえすれば武器を使用できると述べたわけ  です。 ■ 駆けつけ警護をどうやってクリヤーするかについて、示唆するような自衛隊の内部文  書があります。  平成15年11月12日付の「武器使用権限の要点」と題する、イラクへ派遣される自 衛隊員向けの教育用文書では、次のように説明されています。   @)現場から離れたところに攻撃を受けている者がいる   A)その者を救助するために駆けつけて武器を使用することは許されない   B)しかし救助しなければならない   C)要件を満たせば武器の使用が可能   D)武器を使うことについての積極的な意思がなければ武器を持って救助に駆けつけ     ることは構わない   E)駆けつけた現場で危機に陥った場合には武器を使用することができる  先ほどの佐藤正久議員の発言と同じです。D)のところを、情報収集の目的で現場に駆 けつけると言って、武器を使うことについての積極的な意思をもたずに武器を持って救助 に駆けつけると言うわけです。 ■ この問題は、従来、憲法9条の下では許されないとされてきた駆けつけ警護を、イラ クに派遣された自衛隊が実行しようとしていたこと、佐藤正久議員個人の意見ではなく、 自衛隊が組織的に行おうとしていたことからして、国会や国民の目の届かないところで自 衛隊が暴走しようとしていたことをあらわす事態ではないでしょうか。  そして、政府がシビリアンコントロールの原則を守ろうとするのであれば、この佐藤正 久議員の発言や自衛隊内部文書の存在を受けて、安倍内閣としては、事実関係を厳密に調 査すべきではないでしょうか。そして、自衛隊が違憲違法の駆けつけ警護を実行しようと していたことが明らかになった場合には、その原因を究明し、二度とそのような自衛隊の 暴走行為が発生しないように措置を講ずるべきであり、自衛隊幹部の責任を追及すべきで しょう。   因みに、佐藤正久議員は、平成15年10月末にイラクへの派遣命令が出された当時、  陸幕の教育訓練部教育訓練班長で、自衛隊員を教育する側の責任者でした。 ■ 憲法9条をなし崩し的に骨抜きにする既成事実化は許されません。  安倍内閣も、佐藤正久議員も、自衛隊も、そんなに武器を使用したいのでしょうか。そ んなに戦争をしたいのでしょうか。戦争になれば、命を失うことについて敵も味方もあり ません。相手側の人の命も自衛隊員の命も、そまつにできるようなものではないでしょう。 平和を望み、憲法9条の骨抜きに反対する私としては、情報保全隊の国民監視活動も含 め、この間の自衛隊の暴走行為は絶対に許すことができません。                     弁護士 小 笠 原 伸 児



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