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岡根弁護士のぼやき論壇

  
  

刑事司法の原則は何処に行ってしまったの? 

   刑事司法の大原則の一つに、「無罪推定の原則」というものがあります。  被告人や被疑者(起訴される前後で区別されます)は、無罪と推定されるというもので、 裁判(判決)によって有罪とならない限り、無罪(の可能性がある)として対応しなけれ ばならないということです。ですので、よくわからないことや証明できていないことは被 告人(被疑者も含む)に有利に判断しなければならないのです。  「ひょっとしたらやったかもしれない」ということで有罪とされ処罰を受けることにな れば(嫌疑刑としてかつては存在しました)、疑いをかけられたらいくら弁明しても処罰 されることになってしまいます。完全な無罪を証明できない限り、有罪となるということ です。  ところが、現状の刑事裁判を見る限り、ごく少数の例外を除いて、無罪の心証を得るこ とは、真犯人を見つけ出すことでもない限り、あきらめざるを得ない状況です。疑いを完 全に払いのけない限り、原則とは裏腹に、「有罪」となってしまっている現状があるので す。  逮捕され、勾留された場合、20日程度は、身柄を拘束された状況が続きます。起訴さ れた場合などは、その後数ヶ月間(場合によっては数年)、裁判が終わるまで勾留が続く こともあります。  その場合でも、本来は「無罪推定の原則」が働いているはずですから、被告人・被疑者 の自由の制約は最小限度でなければ許されません。  身柄を拘束され、行動の自由を奪われるだけでも、非常に重大な自由を制限されること になります。普通の人なら、1日か2日拘束されるだけで精神状態が不安定になると言わ れています(アメリカにおける実験結果より)。  そうであるにもかかわらず、さらに、身内や知人とも会えなくなるとしたら、完全に外 の世界とは遮断されてしまいます。その上、取調では、弁明をしても聞き入れてもらえな いのです。孤立無援で、四角い無味乾燥な狭い部屋に20日間も閉じこめられることを想 像してみてください。  ところが、最近では、勾留され、少しでも捜査側の思いこみと異なることを言おうもの なら、いとも簡単に「接見禁止」が付けられます。つまり、弁護人を除き、捜査側以外の だれとも会えなくなり、手紙のやりとりもできなくなってしまうのです。外部と完全に遮 断されるのです。  理由は、だいたいが「証拠隠滅」「逃亡」の虞(おそれ)です。  勾留中に接見する場合、一般面会(弁護人以外との面会、普通は手続きさえ踏めば誰で も会える)では、必ず刑務官などが立ち会い、被告人と面会者との話を聞いています。そ のような状況で、なにをどうやって「証拠」を隠すのでしょうか。  また、簡単に脱獄が出来るとでも思っているのでしょうか。  この前、とある事件がありました。私の感覚からすると犯罪になるとは思えない事件で、 ある人(仮にAとします)が勾留されました。検察側のいろんな情報に乗っかった事実を くっつけ、それが仮に本当であるとすると、たしかに犯罪にはなりそうですが、かなり強 引なこじつけが必要に思えました。単なる「嫌疑」というよりもむしろ「懸念」と言った 方がいいくらいのものでした。もちろん、共犯とされている人も、Aは関係ないと言って います。  それでも、検察官は、「嘘ついてるかもしれないですしねぇ」と言って、Aの言い分は 全然信用しません。  かわりに、被害者の方の言い分については、被害者自身が言ってないことまで、その可 能性があるとして、なにがなんでも犯罪とする方向で検討します。  それで、検察官にあって話をしていた際、少なくとも身内との接見禁止は行き過ぎだろ うと思われたので、「やってない(かもしれない)と考えないとダメなんじゃないですか ?」と質問したところ、その検察官「へっ???」。  たしかに、犯罪となると思って身柄まで取って捜査してるわけですから、無実と扱え、 とはならないのは当然ですが、「無罪推定の原則ってそういうもんでしょ?」というと、 「見解の相違ですね」、といわれてしまいました。自由の制約は最小限であるべきとは、 全く思ってないようです。犯罪を追及する立場だとどうしてもそういう発想になってしま うんでしょうかね。  だからこそ、捜査機関は有罪推定を前提に動くので、裁判官が令状を審査して不必要な 制約を防ぐという建前になっています。  ところが、裁判所の現状はというと、その多くは、検察官に問い合わせてOKがでない限 り、裁判官は検察官の請求どおりの結論しか出しません。極たまに例外はあるのかもしれ ませんが、接見禁止、しかも全面禁止がすいすい通っているのが現状です。  事件と無関係の身内とのわずか30分以内の接見(一部解除といいます)さえ認めない のです。  無罪推定の原則のなんとむなしいことか・・・                            弁護士  岡 根 竜 介



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