前回は,熱気球に乗って,「風の強さや向きは,高度によって違う」ということを実感したお話をしました。
でも同じことは,グライダー乗りとしても,とても大切な「感覚」なんです。
グライダーは(モーターグライダーは別として)動力がありませんから,紙飛行機のように「落ちながら」飛びます。でも,上昇気流があるとそれに乗って,高度を稼いで,また遠くに「落ちながら」飛べるんですよね。
でき方によっていろんな種類に分けられる上昇気流のうち,もっともポピュラーなのが,「サーマル」。地面の熱によって暖められた空気が,ぐらぐら煮立ったお鍋の「泡」のように,底から上がってくるという,「熱上昇気流」のことです。
サーマルは大体まあるい球形というか,円筒状というか,そういう形をしています。グライダーが飛行中にサーマルに当たると,飛んでいる空気自体が持ち上がるわけですから,グライダーもお尻からぐぐっと持ち上げられます。そのまままっすぐ飛び続けると,サーマルの中からあっという間に出てしまうので(サーマルが直径2kmも3kmもあれば別ですが,せいぜい数百メートルですから),サーマルの中でちょうど円を描いて飛び続けられるように,くるっと旋回するわけです。
サーマルの中で上手にくるくる旋回し続けると,グライダーは上昇気流に乗ってどこまでも(サーマルのトップまで)上がっていけます。その軌跡は,螺旋階段のような感じです。
でも,風が吹いていると,グライダーは気流の中では円を描いて飛んでいても,空気自体が流されているわけですから,上がりながら風下に流されるんですね。
さあ,上空400~800mの層では北風が吹いているとしましょう。ところが800m辺りでウインドシアー(風の変わり目)があり,800m~1200mでは西風が吹いていたらどうでしょうか。
グライダーパイロットはサーマルを捕まえて,鼻歌交じりにぐんぐん高度を稼いでいきます。400,500,600・・・バリオ(昇降計)は景気よく上向いて+2~2.5m/s(1秒間にグライダーが2~2.5m上昇している,ということです)を指しています。さあいいぞ,今日の雲底は1500mはありそうだから,トップまで使い切って,1500まで上がったら次の旋回点へ飛び出そう!とか考えているうちに,700,800・・・あれ?あれ?れれ?!ない!サーマルが無くなった!!しゅるるる・・・と下を向き始めるバリオメーター。おかしいなあ,もうこのプラス(サーマル)は終わりか・・パイロットはつぶやきながら,そのサーマルを後にして飛び出すかもしれません。そしてサーマルの周囲には必ずと言っていいほどあるマイナス(沈下)にたたかれ,あれよあれよという間に高度は600,400・・・そして敢えなく撃沈されて旋回点は回れずランウェイに帰投してくる・・・。
ああ,幾度となく私も繰り返したよくある悲しいお話です。
でも,しかーし。このような風の変わり目には,サーマル自体も少し「移動して」ねじれていることがあるんですよね。下手すると,折れ曲がっていることも。そんなときは,急になくなった辺りで,少し風上や風下に足をのばして,探ってみる必要があります。
旋回しながら,景色や雲の動き,流れ方や,上空の雲との位置関係や,そして何より「尻バリオ」。身体,特にお尻で感じる持ち上げられ方や,風の音,空気の音,匂い(はあんまりしないけど),そんないろんな「情報」を,全身を耳のように研ぎ澄ませて感じ取る,そうしないと風をつかめない。
それが,グライダーのとびっきりのおもしろさです。
ああ,ホントに飛びたいな・・・。