1. 空飛ぶ弁護士のフライト日誌ログ―DAY4:グライダーはなぜ飛ぶか?
空飛ぶ弁護士のフライト日誌

 今でも,空港からジェット機に乗るたびに「こんなでっかい鉄の塊がなんで飛ぶんだ?!」と思ってしまう。頭では,ジェットエンジンが推進力を生みだし,前に進むと同時に翼の周りに気流が生まれ,機体が浮かぶ「揚力」が発生するのだ,とわかってはいても,どうもイメージが湧かない。

 グライダーが飛ぶ原理は,それと比べると至ってシンプルだ。頭の中に,風を切ってすーいと飛ぶ,紙飛行機を思い浮かべてもらえればいい。あれがグライダーの飛んでいる状態。
 グライダーには,モーターグライダーと言ってプロペラエンジン式の動力を搭載しているものもあるけれど,私が乗っていた「ピュア」グライダーは違う。動力がないので自力では上空に上がれず,機体下部に装着したワイヤーをウインチという巻き取り機で巻き取って凧揚げの要領で上がるか(これだと離脱高度はせいぜい300m~600mくらい),セスナ機のような飛行機に曳航してもらうか(これだと好きな場所,好きな高度まで引っ張ってもらえる)しかない。そのかわり,いったん上空に上がると余計なエンジン音もなく,聞こえるのは翼が風を切るささやき声だけだ。エンジンがなくてもそれ自体「飛ぶ」ように出来ているのだから,上空で壊れて飛べなくなるということもなく,トラブルは少ない。

 上空で滑空姿勢に入った,つまり飛んでいる紙飛行機の状態になったグライダーは,空の滑り台を滑り降りているように,少し下向き加減になっている。私たちも前のめりになって坂道を降りていると,「おっとっとっと・・・」と思わず足が前に進んでしまうでしょう?あんな感じで,グライダーも「揚力」という機体を上に持ち上げて支えている力が前のめりに傾いているので,その傾きが推進力になっているのである。ちょっと難しいですね。

 もう少し難しいことを言うと,この「揚力」というのは,翼の上面と下面で気流の流れる速さが違うことから生じる上向きの圧力のことである。えっと,コピー用紙のような薄い紙を用意して下さい。その短い辺の両端を指でつまんで自分の唇にくっつけ,紙の上面に沿って息が流れるように,「フーッ!」と息を吹きかけてみてください。巧くすると,ハタハタと紙が上に持ち上がって翻るんですが,どうでしょう?簡単に言えば,これが「揚力」である。なんか,「ベルヌーイの定理」とかそんなんも航空力学で勉強した気がするが,難しいので忘れてしまおう。
 とにかく,この揚力が発生する向き,ベクトルが,垂直方向より少し前のめりに傾いているから,とっとっと・・・とグライダーも斜面を滑るように前に進むのである。

 まあ,なんだかんだ言っても,実際に飛んでみないとわからない。私も一回生で,座学だけやらされたときには皆目わからなかった。えいっ!と飛びこんで体で感じて,頭で覚えた知識と体の感覚が段々一致してくるその過程が,6番目の知覚を獲得しているようで,たまらなくエキサイティングだった。もう一度,ああいう全く新しい世界に飛びこんで右往左往しながら学んでいくという経験をしたいなあと思う,今日この頃である。
                                                   弁護士 古 川 美 和