1. 空飛ぶ弁護士のフライト日誌ログ─DAY6:グライダーの限界・速度編
空飛ぶ弁護士のフライト日誌

 グライダーはどのくらいの速さで飛んでいるのか。どれくらいだと思います?答
えは,高速道路を走る自動車くらい。平均的な練習機の巡航速度は,時速80km
から90kmです。
 では本気でぶっ飛ばしたら何キロくらい出るのか?よくある復座機(2人乗り)
のASK21(アレキサンダー・シュライハー型K21。ASはドイツのグライダ
ー製作会社名,Kは設計者のカイザーさんのイニシャルです。)で,超過禁止速度
は時速280km!でも私だって,えー,そんなにスピード出るのかな?って感じ
です。今までたぶん200km/hくらいは出したことがあるんですが,それだっ
て操縦桿を押す手が振動でぶるぶる震えるくらいの抵抗感,翼はぶぶぶぶぶ・・・
と嫌な音を立てるし,ときどき「ミシッ」とか機体の接合部がきしんだりして,生
きた心地がしない,おお怖い。しかも速度を出せば出すほど,機体は「下を向く」
んですよ。グライダーの速度というのは,上空を飛んでいる姿勢,滑空姿勢で決ま
るのです。坂道を自転車でペダルをこがずに滑り降りる場合を想像してみてくださ
い。急な坂道ほど,自転車のスピードは上がりますよね?

                                (通常時の滑空姿勢)
 あんな感じで,横から見ると「下向き」の姿勢で急降下しているグライダーほど,スピードが出ているんです。200km/hも出ていると,地面がたくさん見えて,「あー,ぐんぐん落ちてるなあ」という感覚。少しでも長く空にとどまっていたいと思う私は,高速飛行でかっ飛ばすのはあまり好きではありません。  ちなみに,グライダーの速度計は,「対気速度」,つまりその空気の中での速度を計るもの。「対地速度」,地面に対して時速何キロで飛んでいるかは,また別です。だから,例えば秒速10mの向かい風が吹いていて,速度計で90km/h出ているとする。秒速10mは時速36kmですから(このくらいは上空でさっと計算する・・・というより,覚えています),正面から時速36kmの風が吹いているとすると,風に阻まれて地面との関係では90-36=54km/hでしか進んでいないことになるのです。逆に,追い風の場合は速度計の速度より速く目的地に到着します。        

     (高速時は下向きで飛ぶ)

   普段,私たちは地面にしっかり足をつけていて,地面との間で摩擦があるため,多少の向かい風が吹いてもずずず・・・とか風下に飛ばされたりしません。でも,上空では摩擦がないので,グライダーは風に流されちゃうんですね。だから,追い風で旋回をするときは,風に流されることを考慮していつもより早めのポイントで旋回し始めたり,地上とは違う頭の使い方が必要になってきます。そして私は,そういう風に「空のアタマ」に切り替える感覚,自分の中の二重性が好きだったりします。

                           弁護士 古 川 美 和