1. 2013年5月

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被相続人の生前中に書かせた相続放棄の書面の効力

Q : 親兄弟に散々迷惑をかけてきた三男が、「自分は迷惑をかけてきたから、父の相続が発生したときは、相続権を放棄します」という念書を作成すると言い出したので、念書を書いてもらい、実印を押してもらいました。有効でしょうか?

 

A : 無効です。このような念書を書いてもらっていても、また推定相続人全員の合意の形を取っていても無効です。

 相続放棄は、被相続人の死亡後の家庭裁判所への申述と審判によってのみ効力が発生するからです。

 このようなケースでは被相続人が遺産のすべてを三男以外のものに相続させる旨の遺言書を作成することが考えられます。

 しかし、そのような遺言書が存在していても三男(子ども)には「遺留分」といって、一定期間内に法律で定められた遺留分割合を請求する権利が認められていますので、上記のような遺言書を作成しても、後日三男が心変わりすれば、親兄弟の意向に沿わない結果になる可能性があります(この場合、「相続人の廃除・欠格」という制度も存在しますが、要件がかなり厳しく定められています)。

 もっとも、もし真意に三男がまったく相続はしないという意向を有しているのであれば、三男が自ら相続開始前に「遺留分の放棄」をすることは可能です(民法1043条)。

 ただし、「遺留分の放棄」は必ず家庭裁判所の許可を得ておかなければなりません。

 家庭裁判所としては、①申立が三男の真意に基づいてなされているか、②放棄の理由に合理性・必要性が認められるか、③放棄と引き換えに贈与等の代償給付がなされたかどうかといったことを考慮して、許可をするか否かを判断することになります。

 ただ、こうして考えると、三男が真意に相続したくないとの意向を有しているのであれば、心変わりのリスクはありますが、相続開始後に相続放棄をするか(家庭裁判所への申述は必要ですが、放棄の理由や合理性・必要性等は問われません)、相続開始後に三男の取得分をゼロとして遺産分割協議を成立させる(家庭裁判所への申述も不要です)ことが現実的な方策と思われます。

               弁護士 黒澤 誠司