生前に支給された退職金、並びに退職後で退職金の支給を受ける前に死亡した場合の退職金はいずれも相続財産となります。
ただ、本人の死亡後、遺族等に支払われる死亡退職金が相続財産に含まれるか否かについては、昔から争いがありました。
1.死亡退職金の支給について受給権者が規定されている場合
就業規則等で受給権者が被相続人と定められている場合は、相続財産となります。
他方、遺族等と定められている場合、考え方が分かれますが、最高裁を含めた多くの判例は、死亡退職金について遺族の生活保障が目的であると考えて、相続財産ではないと判断しています。
2.死亡退職金の支給について受給権者の規定がない場合
例えば、死亡退職金についての定めが勤務先会社に存在していなかったが、本人の死亡後、勤務先会社の決議で死亡退職金を支給する旨の決議を行って遺族に支払いをした場合などについては、判例でも考え方が分かれていました。
ただ、最高裁判所昭和62年3月3日判決では、退職金支給規定を有しない財団法人の理事長が死亡した後に、理事会が亡理事長の妻に対して死亡退職金を支給する旨の決議を行い支払った事案について、死亡退職金は相続財産として相続人の代表者としての妻に支給されたのではなく、相続という関係を離れて亡理事長の妻個人に支給されたものであると判示して相続財産ではないとの立場に立ちました。
死亡退職金が相続財産となるのか否かは、被相続人が他に多額の負債を抱えており、相続放棄を検討しなければならないケースなどでは、重要な問題となりますので、慎重な事前の検討が必要です。
2013年1月7日 弁護士 黒澤 誠司