最近では、医療事故に取り組まれる弁護士も増えてきましたが、医療事故の場合、いわゆる一般民事といわれる事件とは少し異なる面があります。
一般民事事件の典型例としては、貸金請求事件や交通事故事件などがありますが、これらの事件については、最初の相談をお聞きした時点で、ある程度、勝訴の見込みやその後の回収可能性の見通しを立てることができるため、2回ほどの打ち合わせで調停や訴訟などで受任をすることが可能です。
ところが、医療事故の場合、医療行為の内容が問題となるため、最初に相談をお聞きしただけで、医療機関側に過失が認められるか否かの見通しを立てることは困難です。
そのため医療事故の場合、一般民事事件とは異なり、最初医療機関側の過失が認められる可能性があるか否かについての見通しを立てるための「調査」が必要になり、最初は医療事故の「調査」として受任することになります。
「調査」の内容としては、具体的にはカルテの取り寄せ(ケースによれば証拠保全)、翻訳、医学文献の調査、判例調査、協力医の意見聴取などです。
こうした「調査」の依頼からスタートすることが、医療事故と一般民事事件との大きく異なる点の一つだと思います。
もちろん、「調査」の結果、勝訴が見込まれないとの判断に至ることもありますので、その場合、費用だけかかって何にもならなかったということになりかねず(私はそうは思いませんが…)、弁護士に依頼することへの一つの大きなハードルになっていると思います。
医療事故は難しい、費用がかかるあるいは時間が掛かるといわれていることの一つの原因はここにあると思われます。
ただ、この「調査」がしっかりと行われていないと、その後の訴訟等で医療機関側から思わぬ反論を受けて訴訟を維持できなくなるなどの事態も生じうるため、医療事故ではこの調査が非常に重要であると考えています。
2012年6月8日 弁護士 黒澤誠司