望月衣塑子(いそこ)さん。東京新聞の新聞記者。
つい、この間まで全く名前も聞いたことがない人だったが、森友・加計学園問題などで菅義偉内閣官房長官へ鋭く執拗に質問する姿に、一躍、時の人となった。
その望月さんの著書「新聞記者」(角川新書)を読んだ。
望月さんが新聞記者をめざした原点は、中学3年の時に母親から「これ読んでみたら」と渡された1冊の本。フォトジャーナリスト吉田ルイ子さんの「南ア・アパルトヘイト共和国」。
遠く離れた異国の地で、黒人が白人と当たり前のように分離され、一人の人間として扱われていないという状況・・・「自分の身の回りだけでなく、世界で何が起きているか常に関心を向けなさい」という母の思いだと感じた。
就職試験では、大手新聞社に軒並み落とされ、内定を得たのが東京新聞だった。
東京新聞というのは、正確には、中日新聞社東京本社が発行する関東地方及び東京都のブロック紙だが、もちろん全国的なニュースも紙面に掲載する。
いま現在にもつながる「森友問題」が初めて表面化したのは、2017年2月9日付け朝日新聞朝刊のスクープ「学校法人に大阪の国有地売却 価格非公表 近隣の1割か」だった。
取材舞台が大阪だったため、当初は、東京新聞のスタンスは消極的だったが、望月さんが編集局長に進言し、森友問題を追うチームに入ることになった。
そして、またもや朝日新聞の5月17日のスクープで「加計問題」が状況を一変させた。
そんな中で、私が報道で感じた違和感を望月さんも同様に感じていたことがわかった。
いや、「報道」の分野に身を置く望月さんは、私たち以上に違和感を感じたに違いない。
その1つは、NHKが「加計問題」と同時期に、真子さま「ご婚約の見通し」をスクープ報道したことだ。
「婚約」ならともかく、「婚約の見通し」って何?と、その時、私は率直に違和感を感じたが、望月さんも「まるで芸能人のようにスクープとして報じるだけの価値があるだろうか」と書いている。
もう1つの違和感は、5月22日付けの読売新聞「前川前次官 出会い系バー通い 文科省在職中 平日夜」の記事。
望月さんが「目を疑った」のは、確たる証拠も何も記されていなかったこと。
二度も望月さんの転職を誘ってくれた、あの読売新聞が・・・・
ただ、前川前文科省事務次官の記者会見にのぞんだ望月さんも、前川さんの出会い系バーへ行ったのは「貧困の実態を探るためだった」という言葉に、それは「さすがに無理がある」「本当に信頼に足る人なのだろうか」と感じた。
そこで、望月さんは前川さんにインタビュー取材をする。
前川さんは、出会い系バーで女性から聞いた高校教育の実態、読売新聞掲載の直前に文科省の後輩から「和泉(内閣総理大臣)補佐官が『会いたい』と言えば、応じるつもりはあるか」というメールが入ったこと、教育基本法を全面的に改正し道徳教育や愛国心が明文化され教育の方針を転換した安倍政権に違和感や疑問を禁じ得なかったこと、などを語った。
そして、望月さんは「もっと前川さんの思いに応えたい」と考えるようになった。
加計問題の背後では官邸の人間が暗躍しているのは、明らか。
毎日マスコミに対応するのは、菅長官しかいない。
しかし、菅長官の定例会見は、おなじみの「ご指摘にはあたりません」「問題ないと思われます」といった木で鼻をくくったような答弁。記者たちは質問を重ねない。
望月さんは思った「これはもう、自分が出席したほうがいいんじゃないか」と。
そこから、望月さんの定例会見での快進撃が始まった。
望月さんの「やらなくては」という思いが強まる一方、今後、望月さんを会見から「排除」する動きも強まる可能性もある。
望月さんの質問に対し、あの表情を変えることなく淡々と話す菅長官がマレに感情的になる場面もあるが、官邸の壁は厚い。
しかし、望月さんが嫌がられながらも頑張って食い下がって質問をしてくれることにより、私たち国民は、今、政治の場で何が起こり起ころうとしているかが、わかってくる。
望月さんが「私は特別なことはしていない」と語るとおり、それが報道の役割だと思う。
しかし、それができていないのが報道現場の現状で、だからこそ、当たり前のことをしている望月さんがテレビなどで取り上げられたりする。
森友・加計問題は、未だ疑惑が山積している。
望月さんが、本書の末尾で引用しているのは、ガンジーの言葉だ。
「あなたがすることのほとんどは無意味であるが、それでもしなくてはならない。そうしたことをするのは、世界を変えるためではなく、世界によって自分が変えられないようにするためである」
望月さん、頑張れ!
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