1. カズオ・イシグロ
ブログ マチベンの日々

カズオ・イシグロ

 
日系イギリス人であるカズオ・イシグロ氏が昨年、ノーベル文学賞を受賞した。
彼がノーベル賞を受賞したという報道に接するまで、恥ずかしながら、彼の作品を読んだことがなかったことはもとより、名前さえ聞いたことがない、全く知らない作家だった。
 
ニュースで受賞を知っても、すぐに読んでみようとは思わなかった。
外国人作家が書いた小説は、なんとなく読みにくいという感覚が私の中にあったからだ。
 
しかし、高校時代の同級生のメーリングリストで、Fさんが「二年前の春から夏にかけて集中的に読み感銘を受けた」「フィクションらしいフィクションを圧倒的なリアリティで紡ぎ出すという力量は僕が今まで読んだ作家の中でも有数のもの」「彼の作品には、思想性、主義主張が巧妙に排除あるいは隠蔽されているという特徴がある」と書いていたので、これはもう読まなくてはと思い、書店に行った。
 
受賞当初は、書店に本がなく、店員に尋ねると「増刷中なので、しばらく待って」という回答だった。
そして、しばらくすると、やっと書店にイシグロ氏の作品のコーナーが設けられた。
 
最初に読んだのが「日の名残り」。
人生の黄昏どきを迎えた老執事が、旅路で回想する古き良き時代のイギリス。
旅の場面と、長年仕えた先代の主人への敬慕、執事としての品格、女中頭への想いなどの回想が交錯する。
 
旅の場面と回想とが入り交じって、私にはわかりにくく、最初はなかなか読み進むことができなかったが、最後まで読み終えると、執事のあるべき姿を求め続けた男のせつない思いが感じられた。
久しぶりに、深い作品を読んだという実感があった。
 
BSで放映された「カズオ・イシグロの世界」で、イシグロ氏は、この作品について、「自分が最もホコリを持っていたものや業績は実は恥ずべきことだった」ことに気づいた個人を描き、過去に向き合うべきか忘れるべきかを問いかける作品だと語っていた。
 
「日の名残り」を結構エネルギーを使って読み終えたが、そうすると、また別の作品を読みたくなった。
そこで、次に読んだのが「私を離さないで」。
全く知らなかったが、この作品は、昨年、テレビで日本版としてドラマ化されていた。
この作品も、介護人女性の回想で物語は展開する。
ある施設で共に暮らし学ぶ子どもたち。その施設の子どもたちに求められる「提供」とは・・・
人間とは、愛とは・・・その根元を問うテーマで衝撃的だった。
 
なお、「日の名残り」と「私を離さないで」は、共に映画化されている。
 
2017年12月7日、スウェーデン・アカデミーで受賞記念講演したイシグロ氏は、現代の世界で極右思想や人種差別などの偏狭な思想が蔓延していると厳しく指弾するとともに、自らは文学の力で人類の幸福に貢献するという強い意欲を示した。
 
そして、私は、3作品目として「浮世の画家」を選び、今また読み始めている。
 
 
 

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