1. 「サイレント・ブレス 看取りのカルテ」(南 杏子著。幻冬舎)
ブログ マチベンの日々

 
以前、新聞に掲載された書評を読み、その切り抜きを大切に保管して「読んでみたい」と思っていた1冊をやっと手に取った。
終末期医療のあり方を問う、現役医師によるデビュー作の小説。
2016年9月に単行本が出版されたが、本の帯によると、2018年6月21日放送の「NHKラジオ深夜便」に著者が出演したことによって、緊急文庫化されたようだ。
 
主人公は、大学病院から地域の訪問クリニックへ異動になった医師水戸倫子。
左遷、いや、それ以下だと落ち込む倫子。
クリニックは、在宅で最期の時を迎える患者を診ているが、大学病院では病気を治すこと、命を救うことが医師の使命としか考えてこなかった倫子は、「治療法のない患者に、医師は何ができるのか」と医師の存在価値について悩む。
 
第1話から第5話の短編連作の中で、何人かの終末期の患者とその死に関わり、徐々に、クリニックの医師としてのスキルを高め学び、成長していく姿を描く。
そして、第6話「サイレント・ブレス」では、倫子自身が父親を看取ることになる・・・
 
脇を固める登場人物たちも少しコミカルで、茶髪でピアスの男性看護師コースケ、クリニックのスタッフが常連として通う「ケイズ・キッチン」のニューーハーフ店主ケイちゃんが作る珍妙な料理などが、深刻なテーマを和らげてくれる。
そして、倫子を「左遷」した直属の上司大河内教授が、ずっと倫子を見守り、医師の終末期医療への関わりを語り助言する。
 
倫子は、苦しみに耐える延命よりも、心地よさを優先する医療もある、と知った。
穏やかで安らぎに満ちた、いわばサイレント・ブレスを守る医療が求められている、と。
 
深く胸にしみこむ1冊となった。
折しも、京都での地域医療のパイオニアであった医師早川一光さんが亡くなられたばかりで、ずっと地域医療に取り組んで来られた早川医師の姿に重なるものもあった。
 
「人は誰しも死んでいく」
わかりきったことだし、実際に両親を見送っているのに、私自身は、まだ、自分がどんな終末期を迎えるか、はっきり決めることができないでいる。
ただ、人との関わりを大切にして、自分の一生を終えたいとだけは心から思う。
 
オススメの1冊である。
 
 
 
 

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