1. 「ある行旅死亡人の物語」武田惇志・伊藤亜衣著(毎日新聞出版)を読んで
ブログ マチベンの日々

「行旅死亡人」(こうりょしぼうにん)という言葉をご存知だろうか?

 

私たち弁護士にとっても、なじみのない言葉だが、れっきとした法律用語である。

身元が判明せず、引き取り人不明の死者を表す。

 

私は弁護士になって間もない頃に、弁護士会の委員会活動の中で、何か「貧困問題」のようなテーマだっただろうか、調査をする中で、偶然、この用語に出会ったことがあった。

その時に「行旅死亡人」という言葉を初めて知り、それ以来、見たこともない言葉だったが、最近、新聞の書評で再び目にすることになった。

 

共同通信大阪社会部の1990年生まれの若い2人の記者が書いたノンフィクション「ある行旅死亡人の物語」。

まるでミステリー小説を読んでいるかのように、最初からどんどん引き込まれていった。

 

ネタ探しをしていた武田が「行旅死亡人データベース」にアクセスし、目に止まったのが、兵庫県尼崎市の安い賃貸アパートに居住していたある高齢女性が自室で孤独死したという記事。

3400万円を超える現金の所持金に加え、右手の指がすべて欠けていたことが武田の目を引いた。

40年も家賃月3万円のアパートに住んでいながら、住民票は抹消されている。

製缶工場で働いていた時に指詰めの事故に遭ったが、労災も自ら断り、できるだけ人との接触を避けるようにして生きてきたことがわかった。

 

なぜ?

 

武田と同僚の伊藤は、二人で、警察や探偵にも追えなかった彼女の人生の足跡を追っていく。

ネタバレになるので割愛するが、その調査の過程がとても興味をそそられる。

「死者について・・・知りたいと思う。”死”というゆるぎない事実の上に、かつてそこに確実に存在した生の輪郭を少しずつ拾い、結び、なぞること。それは、誰もが一度しかない人生の、そのかけがえのなさに触れることだ。」

そして「人間の足跡、生きた痕跡は、必ずどこかに残る。そう行旅死亡人でも、である」

 

小説ではないので、読者が(私が)知りたかった彼女の過去が全て明らかになったわけではないところに、はがゆさは残る。

しかし、たとえ行旅死亡人であっても、「かけがえのない人生」が確実にそこにあったことを感じられる読み物であった。

 

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