1. 朝ドラ「虎に翼」をより楽しむために(その10)~原爆裁判(1)~
ブログ マチベンの日々

2024年9月6日に放映された「虎に翼」は本当に感動的だった。

この日のラスト場面は原爆裁判の判決言い渡し。俳優平埜生成が演じる汐見裁判長が約4分にわたって判決文を読み上げた。そして、これは、史実で実際に言い渡された判決とほぼ同じ内容だった。

 

原爆裁判は、1955(昭和30)年4月、広島と長崎の被爆者5人が大阪地方裁判所と東京地方裁判所で国家賠償請求訴訟を提訴した裁判である(2つの裁判は後に併合)。

朝ドラのモデル三淵嘉子さんは、東京地裁において、3人の裁判官の右陪席として、ただ一人8年間の審理に最初から最後までこの裁判を担当した。

 

判決言い渡しは、1963(昭和38)年12月7日。

なお、史実では、三淵さんは、裁判結審後の1963年4月に東京家裁に異動しているため、ドラマとは違い、判決言い渡しの法廷には出席していなかった。

 

私は、三淵さんだけが8年間最初から最後まで審理に携わったのだから、判決文を起案したのも三淵さんかと思ったら、実際は左陪席の高桑昭裁判官(当時)が草案を書いたという。判決文は130頁に及ぶ膨大なものであった。

高桑さんは「原爆を巡って国家と争う通常の民事とは全く違う特殊な訴訟。大変な裁判を担当したなというのが当時の感想だった」と語る(2024年7月28日東京新聞)。

 

判決は、国内法上も国際法上も被爆者の損害賠償請求権を否定した。しかし、その理由中に述べられた内容は、原爆の違法性と政治の貧困を指摘する非常に格調高いものであった。

 

ドラマでの判決文言い渡しの場面は、涙なしでは観ることができなかった。

 

(以下、実際の判決文より)

「広島市には約33万人の一般市民が、長崎市には約27万人の一般市民がその住居を構えていたことは明らかである。したがって、原子爆弾による襲撃が仮に軍事目標のみをその攻撃目的としたとしても、原子爆弾の巨大な破壊力から盲目襲撃と同様の結果を生ずるものである以上、広島、長崎両市に対する無差別爆撃として、当時の国際法からみて、違法な戦闘行為であると解するのが相当である」

「人類の歴史始まって以来の大規模、かつ強力な破壊力を持つ原子爆弾の投下によって損害を被った国民に対して、心から同情の念を抱かない者はないであろう。戦争をまったく廃止するか少なくとも最小限に制限し、それによる惨禍を最小限にとどめることは、人類共通の希望であり、そのためにわれわれ人類は日夜努力を重ねているのである」

「国家は自らの権限と自らの責任において開始した戦争により、国民の多くの人々を死に導き、傷害を負わせ、不安な生活に追い込んだのである。しかもその被害の甚大なことはとうてい一般災害の比ではない。被告がこれに鑑み、十分な救済策を執るべきことは、多言を要しないであろう。」

「しかしながら、それはもはや裁判所の職責ではなくて、立法府である国会及び行政府である内閣において果たさなければならない職責である。しかも、そういう手続によってこそ、訴訟当事者だけでなく、原爆被害者全般に対する救済策を講じることができるのであって、そこに立法及び立法に基づく行政の存在理由がある。終戦後十数年を経て、高度の経済成長をとげたわが国において、国家財政上これが不可能であることはとうてい考えられない」

「われわれは本訴訟をみるにつけ、政治の貧困を嘆かずにはおれないのである」

 

結果的に賠償請求は認められなかったが、被爆国の裁判所が原爆の違法性をはっきり示したことは、大きな意義があり、判決文は英訳され、世界的にも国内的にも大きな影響があった。

 

しかし、被害者放置の「政治の貧困」は今も続き、核廃絶の動きも大国の利害の対立の中で進まない、当事者国の日本もアメリカの「核の傘」の下にあって核兵器禁止条約を批准していない。

 

核廃絶への歩みを止めてはならない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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