本書の著者であるノンフィクション作家佐々涼子さんが2024年9月1日、脳腫瘍のため56歳で亡くなった(同月4日付け当ブログ)。
これまで佐々さんの作品は「エンジェルフライト 国際霊柩送還士」「エンドオブライフ」「夜明けを待つ」の3作を読んだ。前2作は、「死」と向き合う中で、その対局にある「生」、「生きる意味」や「生き方」が描かれていた。
本作は、それとは少し趣きが異なり、震災からの奇跡的な復興を成し遂げた人間の力のすごさが描かれている。
紙というものは、どこでどのように作られているのだろうか?佐々さんと同様、これまで考えたこともなかった。
本書は、2011年3月11日、未曾有の大震災で壊滅的な被害を受けた宮城県の日本製紙石巻工場が、絶望的状況から、わずか半年で奇跡的な復活を遂げた記録である。
石巻工場では、日本の出版社の紙の約4割が通称「8マシン」という製造機によって作られていた。本の供給にはなくてはならない工場だった。それが津波によって、閉鎖も噂されるほどの被害を受けた。
しかし、工場長は、半年での復興を宣言した。
工場長が半年での復興を宣言した時、廃墟と化した工場を目の前にした従業員らは、誰もが「言わせておけ」「絶対に無理」と思った。しかし、工場長は、会社の命運は自分たちの肩にかかっていると考え、「半年」という期限を切ることによって社運を従業員らに託した。
その日から、従業員達の闘いが始まった。
水も電気もない中で投光器とヘッドライトをつけての瓦礫の撤去、人界戦術でスコップや時にはスプーンで泥を掻き出す、近隣住宅に流れついたパルプの回収、来る日も来る日も瓦礫の撤去作業は続く。
悲惨な状況の描写には胸が苦しくなるものの、私にとっては想像を超える。
8月には、遂にボイラーが復活。
「いったんたすきを預けられた課は、どんなにくたくたでも、困難でも、次の走者にたすきを渡さなければならない」・・・工場の各課の従業員は、駅伝でたすきをつなぐ思いで、「半年後」のゴールをめざした。そして震災から半年後の9月14日、とうとう「8マシン」が稼働した!
私は「紙の本」が大好きだ。
「紙の本」は、時には、それに触れることによって記憶に残る思い出を作ってくれる。
もし石巻工場が復活していなかったら、今よりももっと急速に「紙の本」が電子書籍に置き換わり、街の本屋は次々に閉店していっていたかもしれない。
被災していない私たちにとっては、共有はもとより想像すらできそうもない苛酷な状況下で、復活を果たしてくれた、表に名前など出ないが紙造りを誇りとした従業員の人達にただただ感謝しかない。