2023年3月15日付け「女性弁護士の法律コラム」で紹介しました大阪地裁判決の控訴審判決が、2025年1月20日大阪高裁で言渡しがありました。
交通事故などで後遺障害が残った場合や死亡した場合、その程度に応じて「逸失利益(いっしつりえき)」の賠償を請求することができる場合があります。
逸失利益とは、被害者がもし事故に遭わなければ、将来得られたであろう利益のことを言います。その計算は、現実に働いている人の場合には、被害者の事故前の収入が基礎となり、子どもや専業主婦など働いていない人の場合には賃金センサスという平均賃金が基礎となります。
この事案では、交通事故で死亡した聴覚障害のある児童(女性、当時11歳)の逸失利益の算定について争われました。
2023年2月27日、一審の大阪地裁判決は「聴覚障害者が労働能力を制限しうることは否定できない」と判示し、全労働者の平均賃金の85%を算定の基礎としました。
これに対し、大阪高裁は、子どもの逸失利益の算定であえて減額することが許されるのは公平性が顕著に妨げられるようなケースに限られるとの判断基準を示し、本件では被害者に減額する理由はないとしました。
子どもらには無限の可能性があり、障害児であるというだけで、たとえ15%であっても減額するのは平等とは言えません。
大阪高裁は、「聴覚障害者の就労の社会的障壁も、ささやかな合理的配慮で職場全体で取り除けるようになっており、それが当たり前のようになっている職場も少なくない」と判示しています。
この判示には、障害の特性に対する「ささやかな配慮」ができる職場や社会を作るべきというメッセージも込められているでしょう。
正当な判決が下されて良かったと思いました。