1. NHK会長の「辞表預かり」と「日付のない退職届」
女性弁護士の法律コラム

 
(女性弁護士の法律コラム NO.162)
 
NHKの籾井会長が、NHKの理事10人全員から辞表を取り付けていたことが発覚し、世間を驚かせた。
籾井会長は、国会で「一般社会ではよくあること」と答弁したが、こんなこと、一般社会でよくあるはずがない。
 
「一般社会でよくあること」ではないが、しかし、全くないわけではない。
ずいぶん前に関わった、ある事件のことを思い出した。
 
京都のある企業で働いていた労働者。
不当解雇ということで解雇無効の裁判を起こすと、会社側から、その労働者の自筆の退職届が提出され、会社の言い分は「解雇じゃない、自分で退職したんだ」とのこと。
実は、その企業は、労働者を雇用する時、全員から日付欄を空白とした退職届を取っていたことが判明した。
 
経営者が労働者を解雇するには「正当な理由」が必要だ。
だから、解雇しても、正当な理由があるか否か、争いとなる可能性がある。
それを避けるために、経営者は、あらかじめ日付欄空白の退職届を取っておき、労働者を解雇したいと思った時、その日付欄を勝手に記入し、労働者が自分の意志で退職した扱いにできるようにしていたのだ。
 
もちろん、そんな退職届は無効に決まっている。
出すこと自体、拒否すれば良いが、雇用される時、労働者がそんなこと言う力関係にない。
出してしまうと、その会社では労働者からあらかじめ退職届を出させているという慣行があるなどと同僚が証言してくれないと、証明は難しくなる。
 
籾井会長の言う「一般社会」ってどんな所だろう。
どこにしても、そんな所はブラックだよね。
 
 

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