(女性弁護士の法律コラム NO.189)
日本テレビにアナウンサーとして2015年4月からの採用が内定していた女性が、ホステスのアルバイトをしていたことがわかり、「求められる清廉性にふさわしくない」という理由で内定を取り消された。
その後、この女性は、今年10月、内定取り消しは無効として提訴し、現在、係争中である。
まず、この「内定」を法的に解説すると、企業による募集に対する応募は労働契約締結の申込みであり、内定通知はその申込みに対する承諾であるから、内定通知によって「入社予定日を就労の始期とする解約権留保付労働契約」が成立することになる(昭和54年7月20日付け最高裁判決)。
従って、企業による採用内定取り消しは、既に成立している労働契約の一方的解約(解雇)であり、採用内定取り消しが適法と認められるのは、「採用内定当時知ることができず、また知ることが期待できない」事実が後に判明し、しかも、それにより採用内定を取り消すことが「客観的に合理的と認められ社会通念上相当として是認できる」場合に限られるのである(前記最高裁判決)。
本件についてはどうだろうか。
銀座のクラブのホステスとして働いていたことを申告しなかったことを理由とする内定取り消しが「客観的に合理的と認められ社会通念上相当」かどうかが問題となる。
ネット上では、賛否両論の議論がなされているが、2014年12月12日付け西日本新聞に掲載された貴戸理恵関西学院大学准教授のコラム内容がとても得心できた。
私には、銀座どころか、地元の京都祇園でも、その夜の世界などほとんど知るところではない。
それでも、少なくない女子大学生にとってホステスが身近なアルバイトになっている現実があることはなんとなく耳にしていた。
それは、東大生、京大生しかりである。
貴戸准教授は、「学費が高額で奨学金などの受給が少なくない日本では」・・・「女性が学業を全うしたければ、時給に恵まれ、時間的に『本業』とかぶらないアルバイトを探すのは当然」「ホステスとは単に『学校のないときにできて、時給が高い仕事』の1つにすぎない」と言う。
日テレがこの女性に送った通知には「銀座のホステス歴は、アナウンサーとしての清廉性にふさわしくない」と書かれてあったそうだ。
日テレの言う「清廉性」とはいったい何なのか。
貴戸准教授は、このようなことが認められれば、アナウンサーのほかに、教師や金融関係など「清廉性」の要求が高い職業から「苦学生」を締め出すことにもつながると指摘する。
そもそも女性だけがホステス経験を理由に「清廉でない」と内定を取り消されるが、クラブよりももっと性的に「過激」であろうキャバクラや風俗店に行った経験を理由に、男性が「清廉でない」と内定を取り消されることはない。
接待する側と接待される側とが「清廉性」においてそれほど違うものなのか。
日テレのジェンダー感覚を疑うばかりである。
元ホステスのアナウンサー誕生を期待している。
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