登山を趣味としてきた関係もあって、7-8年前から、山で遭難して行方不明のままで死亡が確認できない事案の家族の方から危難失踪宣告申立の依頼を受けることが増えてきました。
このような事案を扱う弁護士がほとんどいないようで、全国から相談が寄せられます。
●失踪宣告とは
失踪宣告というのは、行方不明の人を「死亡した」とみなす制度です(民法30・31条)。
失踪宣告には、「普通失踪」と「危難失踪」とがあります。
人の生死不明が7年間明らかでないときは「普通失踪」宣告を申立て、戦地に行ったり、沈没した船に乗っていたりなど危難に遭遇して生死不明の場合には、危難が去っても1年間生死が不明の場合には、7年間待たなくても「危難失踪」宣告の申立をすることができます。
山で遭難された方の家族の皆さんは、7年間も待つなんて気持ちの整理がつかないという理由のほか、失踪者が年金を受給していた場合にその年金支給がストップしてしまったり、生命保険をずっとかけ続けなければならないなど経済的負担もあるようです。
自分自身が登山を趣味としているので、山の危険性を裁判官に訴えることができやすいかなと思っています。
●北穂高岳での遭難
Sさん(60代男性)は、2017年8月に一人で北アルプスの北穂高岳(3105m)に向かい、8月7日に涸沢小屋から北穂高岳に向かって登山を開始しましたが、山頂に到着せぬまま行方不明となりました。
帰宅予定日になっても帰宅しないため、家族が長野県松本警察に通報し、松本警察は捜索をしましたが、Sさんも所持品も発見されませんでした。
北穂高岳には過去に2度登ったことがありますが、落石なども多く、死者や行方不明者が多いことで知られています。
Sさんの件で、家族の相談を受けて、調査を行い、2019年3月に危難失踪を申立て、同年10月「不在者Sを失踪者とする」との審判が下りました。
そしてSさんは戸籍上も死亡したこととなりました。
●骨が見つかった!!
審判が下りて約1年後の2020年夏の終わりに、Sさんの家族から電話がありました。
松本警察から電話があり、骨の一部が登山道で発見され、その骨は99%Sさんのものとのこと。
奇しくも、骨が発見されたのが、Sさんが2017年に行方不明になった日と同じ8月7日で、Sさんの骨であると確定されたのがSさんの誕生日の8月21日でした。
骨の発見によって、Sさんの客観的な死亡がはっきりしたので、Sさんの家族の依頼により、失踪宣告の取消の申立を行いました。
これまで数件の山での遭難の危難失踪宣告申立を行いましたが、後になって、骨が発見されたのはこれが初めてでした。
松本警察の話では、動物がどこからか登山道まで運んできたのだろうということでした。
骨が発見され、またそれがSさんと確定された日が誕生日と一致したことなど、不思議さを感じずにはいられませんでした。
北穂高岳へSさんの慰霊登山をしたいと思っていますが、コロナ禍となってしまい、まだ実現していないことが残念です。