新聞報道によると、在学中の授業料は国が肩代わりし、学生は卒業後の年収に応じて納付するという「出世払い」型の奨学金制度について、文部科学省は、2022年12月23日、有識者会議の報告書を公表しました。
対象は、大学院修士課程の学生です。
報告書では、納付が始まる目安の年収として「例えば、単身世帯で年収300万円」と記載されています。
「出世払い」という言葉を聞くと、私が大学に入って法律の勉強を始めた頃のことを思い出します。
法律をわかりやすく書かれた本として、民法学者我妻栄の「民法案内」というシリーズがありました。確か、その本の民法総則編の中に、「条件」と「期限」の説明として「出世払い」が紹介されていたという記憶です。
私は、この本を読んで初めて「出世払い」という言葉を知りました(今時の若者はどうなんでしょう?)。
法律的に説明すると、「出世払い」とは、出世したら返済するという停止条件(注:停止条件とは、それが成就した時に初めて効果が発生するという「条件」のことです)か、それとも出世するか否かがわかる時点まで返済を猶予する「期限」か、という実はとても難しい問題なのです。
通常の感覚からすると、前者のように思いがちですが、「出世払い」については、大正時代の判例があります(大審院大正4年3月24日判決)。
これによると「出世払いとは不確定期限であり、出世できないことが明らかになったときは、貸主は借金の返済を請求できる」と判断しました。
要するに、「出世払い」という約束は、出世した時または出世する見込みがなくなった時に返済期限が到来することになります。
今回、文部科学省で検討されている奨学金制度は、新聞などでは「出世払い」制度などという見出しで紹介されていますが、本来の法律解釈とも異なりますね。
また、そもそも年収300万円を「出世」と言うのでしょうかね・・・。
年収300万円で返済が始まるのは、決してゆとりある返済とは言えない気がします。