血の繫がりがないのに、認知をした男が、自ら認知をしたことと相反する無効の主張をすることが出来るのか、という問題に、最高裁判所が一つの判断を示した(平成26.1.14第三小法廷判決)。
学説では、血縁関係がない場合には認知は無効である、というのが通説。
自分の子ではないことがはっきりしているのに、無効といえて当然だろう、とも思えるが、そう簡単ではないらしい。
民法785条には、「認知をした父又は母は、その認知を取り消すことができない」と定めてある。 なので、騙されて認知をしてしまったら、取り消せない、ことになる。
786条には、「子その他の利害関係人は、認知に対して反対の事実を主張することができる」とある。
一方、婚姻中に生まれた子どもは(正確には「懐胎した子」)、たとえ本当の親子関係がなくても「夫の子と推定する」(772条)とされるから、血縁関係のない親子関係ができる。
この辺は、親を選べない子の保護をどうするのか、という価値判断とも大きく関わってくるところだろう。また、かつてのDNA鑑定などのなかった時代に親子関係が不安定になってはならないということもあったのだろう。
これに対して、婚姻関係にない男女間の子の場合は、少々事情が異なるようで、そこには法律上の夫婦親子関係を保護しないといけないというような考え方が働かないことになる。
ここでは、認知をした者が一旦認知をした以上その意思を尊重し、無効の主張は認めない、とするのか、血縁関係の有無という事実関係を重視するのか、という価値判断で、結論が分かれるところだった。
この点、最高裁判決では、(単純に言い切ってしまうと)事実関係を重視して、785条で否定されるのは「取消」であって、「無効」とは異なること、認知した者も786条の言う「利害関係人」に当たると解釈できることから、たとえ血縁上の父子関係がないことを知っていても、無効主張はできると結論づけた。
認知するに至った事情もいろいろあるから、個別事情は個別に対応したらいいので、取りあえず、一律に無効主張は駄目とはしないようにした、ということだ。 なので、この判決が出たからといって、常に無効主張が認められるわけでもない。 結構複雑・・・