数年前、遺言作成をした方から、事情が変わってきたので、内容を変えたいとの相談を受けました。
一般的に、前に作った遺言書の内容を、取りやめにしたい場合、原則としては、前に作った遺言を撤回することにするとの新たな遺言を作ることが必要になります。
しかし、これはあくまで「原則」であって、その通りにする必要はありません。
遺言をする人は、一旦遺言書を作成したとしても、その遺言の内容に拘束されることはありません。いつでも自由に変更できます。それが、全部であっても一部であってもかまいません(遺言撤回の自由)。
形式的には、遺言も法律行為ですから、法律行為の撤回は自由にはできないことになりそうですが、遺言の場合は、実際に相続が開始するまで、その遺言によって誰も何の権利も得ませんので、その撤回を認めても、誰の権利も害したりしません(期待は裏切ることになるかもしれませんが)。
遺言書を作成すると、その撤回には、再度撤回するとする遺言を作成しなければならないとすると、手間がかかります。
そこで、先に作成した遺言にはとらわれずに、全く新しい遺言を作成した場合、前の遺言の内容と矛盾するところが生じれば、矛盾するところについては前の遺言は撤回されたものと扱われます。
また、遺言で贈与の対象にしていた不動産を生きている間に別の人に売ってしまった場合等も、遺言は撤回されたものとされます。ですので、一旦遺言を作成したからと言って、遺言作成者がその内容に拘束されたりはしません。
自筆証書遺言の場合であれば、それを、自ら破り捨てるなり、焼き捨てるなりすれば、まさに「撤回」です。
自分で遺言を作る場合、日付は必ず記載しなければなりません(968条)。複数の遺言がある場合、上記のように作成の先後が非常に重要になりますので、作成した日付は、必ず遺言の中に書き記す必要があるわけですね。