前科があると、「あーまたやったのか」という発想になりがちです。 そんな前科という事実によって、犯人かどうかを決めてもいいものでしょうか。
先週、最高裁で、前科による事実認定に関するひとつの判決が出されました。 似たような犯罪を前にもしたことがあるから有罪だ、という原判決に対して、前科によって犯人だと判断するためには、単に似たような前科があるだけではだめで、余程特別な特徴を持っていなければ、犯人性を判断する証拠としては使ってはいけません、というものです。
なぜか。
前科を事実認定(特に犯人との同一性)に使わないといけない、という事態は、要するに証拠が足りない場面です。 事件現場に犯人が残した証拠だけでは、誰が犯人であるのかは決められないという時に、「またやったのか」という先入観を抱きやすい証拠(前科)で持って事実認定をすると、どうしても思い込みが優先してしまい、誤判が生じる危険があります。
そこで、最高裁の判決では、「前科に係る犯罪事実が顕著な特徴を有し、かつ、それが起訴に係る犯罪事実と相当程度類似するこから、それ自体で両者の犯人が同一であることを合理的に推認させるようなものであって、初めて証拠として採用できる」としました。
この事件では、盗みに入ったが、満足するものがなかったので、腹いせに放火した、という事案でした。 それについて、動機としては窃盗犯にはあり得ることであるし、放火の方法も別段特殊ではない、ということから、前科犯罪事実と似たような犯罪ではあるけれども、それだけで、今回も犯人だという決定的な証拠とは出来ません、と判断しました。
怪しい、というだけでは、犯人には出来ません、という至極もっともな認定です。
これが、例えば、特別な発火装置を用いた犯行だ、なんてことであれば、有罪となり得るのでしょう。
「前科」は、とても危険な証拠です。 模擬裁判の時にも、30年くらい前の前科が出されたとたん、それまで「無罪」としていた裁判員が多数「有罪」に変わりました。 扱いには本当に慎重な態度が必要になります。 そのあたりに警鐘を鳴らす判決だったんだと思われます。