1. >
    
  児童扶養手当不支給はダメ              
 
                                弁護士 村 松 いづみ    
 
1、   2002年2月22日、最高裁判所は、婚外子が認知を受けた場合に
  児童扶養手当を支給しないという施行令の取り扱いは「児童扶養手当法
  の委任の範囲を逸脱し、違法な規定であり、無効」との判決を下しまし
  た。
   1995年の提訴から約7年。残念ながら、私たちが一貫して主張し
  てきた憲法14・25条違反の憲法判断はなされませんでしたが、最高
  裁で口頭弁論が開かれ、大阪高裁の敗訴判決を逆転した画期的な勝訴判
  決でした。(なお、奈良と広島で争われていた同種事件も、2002年
  1月最高裁で勝訴判決が出されています)
 
2、 母子家庭にとって、払われるかどうかアテにならない養育費よりも、
  国から確実に支給される児童扶養手当は生活に欠かせないものです。
   離婚母子家庭の場合には父親からの養育費の支払の有無にかかわらず
  支給される児童扶養手当が、未婚母子家庭の場合、子どもが父親から認
  知を受けるとストップしてしまう、そんな不可解な取り扱いが現実にな
  されていました。
 
     第一審の京都地裁では、母子家庭の生活実態を出来る限り浮き彫りに
  する努力を行い、併せて家族法・憲法・国際法の観点から3人の学者に
  意見書を書いてもらい証言もしていただきました。
   母子家庭の依頼者の方々の協力を得て、母子家庭の生活実態や児童扶
  養手当がどういう意味を持つのか等について陳述書も提出しました。
     その結果、京都地裁は1998年8月京都府知事が行った児童扶養手
  当支給ストップの処分を取り消す旨の判決を下しました。
  
   この判決に先立つ同年6月、政府は婚外子が認知を受けた場合でも手
  当の支給が受けられるよう施行令の改正を行っていました。
     ところが、政府自ら施行令の差別性や問題点を自覚して改正していた
  にもかかわらず、京都府知事は厚生省(当時)の指導のもとに控訴した
  のです。
 
   控訴審の大阪高裁では、国際条約の観点から学者のシルビア・ブラウ
  ン・浜野さんに証言していただきましたが、大阪高裁は2000年5月
  「社会保障制度の立法・政令は、広い裁量に委ねられる」「認知により
  法律上の父に扶養請求ができるようになり、生活環境の好転があったと
  評価できる」という全く社会実態を無視した理屈で第一審判決を覆しま
  した。
    
   これに対し、今回、最高裁は「法は、類型的に見て世帯の生計維持者
  としての父による現実の扶養を期待することができないと考えられる児
  童を支給対象児童として定めている」と解釈し、「婚外子が認知されて
  も、当然に母との婚姻関係が形成されるなどとして、世帯の生計維持者
  としての父が存在する状態になるわけでないし、父による現実の扶養を
  期待することができるともいえない」として、施行令を無効と判示した
  のです。
 
3、 このような施行令の取り扱いの背景には、民法の相続分差別の規定に
  も見られるような婚外子差別の問題がありました。「婚外子には本来、
  手当などやる必要はないが、特別に未認知の婚外子だけ支給対象とした」
  というのが行政側の意識だったのです。
 
     弁護団の求めた憲法判断は回避されましたが、裁量の幅が広いと言わ
  れている社会保障立法において、行政のつくった施行令が「法違反で無
  効」とされたのですから、社会保障の分野で実質的には平等原則違反を
  勝ち取ることができたことは非常に大きな意義あることです。
 
    多くの母子家庭、とりわけ非婚母子家庭の経済状態は低く、本来、こ
  のような裁判を提訴し長期に続けることは困難なのですが、約7年もの
  長期の間、多くの人々の協力も得て裁判を続けられ、このような画期的
  な最高裁判決まで勝ち取ることができました。
   
   そして、係争中に法改正が行われた結果、その後は、すべての非婚母
  子家庭についてこのような不当な取り扱いが是正されただけでなく、厚
  生労働省は2002年3月7日「過去に認知による手当打ち切りをされ
  た人について当事者の申請があればさかのぼって手当を支給する」と発
  表しました。
 
     「社会的弱者である少数者に対して主として保障される福祉受給権は、
  人間の尊厳に直接関わる『生きる権利』そのものである」(芦部信喜)
  という言葉の重みを改めて感じてました。