拾得物の謝礼金支払いを命じる判決が確定!
大阪高裁2008年1月25日判決
京都法律事務所 弁護士 岡根竜介
1 遺失物法は、拾得物の早期発見、返還のための手続を定めた法律です。2006年に
一部改正され、拾得物の保管期間が短くなったり、個人情報への配慮などから所有権の
取得の制限等がなされています。
さて、遺失物法では、返してもらった持ち主に対して、拾った物の価格の5%〜20
%の報労金を支払うように命じています(同法4条)。
2 2007年7月17日、京都地裁第7民事部で報労金に関する判決があり、拾い主に
対して、約137万円を支払うように命じました。被告側は、控訴していましたので、
争いの場は大阪高裁に場所が変わっていました。
3 事案は、次のようなものです。
Aさんが、2006年1月に、ため池ヘヘラブナ釣りに出かけたところ、足場近くに
鞄が流されてきました。釣り上げるときに邪魔になるところに流れてきたので、その鞄
をタモですくい、近くに放り投げておきました。その鞄については(ゴミという認識で
もあり)ほとんど気にかけることなくそのまま何時間か釣りをしていました。ところが、
放り投げていた鞄の中身がふと目にとまり、「株券在中」というような記載のある紙袋
を見つけたのです。Aさんは、もし株券が入っていたなら警察に届けなければならない
と思ったので、紙袋に株券が入っているのかどうか確かめようとしましたが、濡れてい
たこともあり、無理して開けようとすると(本当に株券が入っていた場合)株券が破れ
てしまうおそれがありました。それで、取り敢えず持ってかえることにしたのです。一
晩乾かして、中身を見ると、本当に株券が入っていたので、Aさんは、近くの交番に届
けました。後日、その株券は遺失主の元に返されています。この株券の入った鞄は、落
とし主が数日前に窃盗被害にあったもののようでした。
交番では、Aさんは、警察官から、いくらかの報労金がもらえることを教えてもらっ
たので、落とし主に連絡し、その後、ことの成り行きで、落とし主宅までうかがったと
ころ、落とし主は、自分は犯罪の被害者だ、金がないから支払えない等の理由を並べて、
報労金の支払いを一切拒絶したのみならず、拾って届けてあげたにもかかわらず、Aさ
んに対して、まるで窃盗犯人であるかのような言い方をされたものですから、口論とな
ってしまいました。
その後、遺失主から代理人の弁護士を通じて(被告=遺失主の説明では、その弁護士
に依頼したことはなく、相談したら勝手に通知をしたそうです。弁護士とすれば、懲戒
原因にもなりうる行為ですので、本当にこんなことをするのかどうか疑わしいですが
・・・)、通知が来ました。その内容は、Aさんの言ってもいないことを取り上げ、Aさ
んの要求(Aさんは言っていません、念のため)は認められないこと、それでも円満な
解決を図りたい、とするものでした。取り敢えず、Aさんは、その代理人に何度か連絡
したのですが、返事はなく、連絡が付きませんでした。
そこで、私が代理人として、落とし主とその代理人の弁護士に連絡をすると、その代
理人は、既に解任されたということでしたので、本人と交渉をしたところ、払うつもり
は全くないこと、話があるのならうちまで来ないと話はできない、Aさんから脅迫を受
けた被害者なのだ、とまくし立てられ、全く話になりませんでした。この段階では、A
さんとすれば、本当は法定の割合の金額を請求するまでの意思はなかったと思うのです
が、半ば犯人扱いまでされ、黙っていることができなかったので提訴することにしたの
です。
4 Aさんとしては、経済的な価値のある落とし物を拾って、翌日自宅近くの警察に届け
ていますので、報労金が認められることは間違いありません。(犯罪の被害品でもこの
点は変わらない。なお、遺失物法では、拾得後7日以内に届けることが報労金請求の要
件となっている。)残る問題は、株券ですので、その価値をどのように評価するのかと
いうことと、報労金の割合をどうするか、のみが争点でした。
ところが、落とし主は、拾ったものを全部届出ないのは違法であるなどの屁理屈(と
しか思えない)を並べ、報労金の請求は権利濫用であると主張してきたのです(被告の
主張の中には、私と被告とのやりとりについても触れられているのですが、私が言った
こともないことを平然と並べていることには唖然としました。)。
なんら非難されるいわれのないAさんの行為が、権利濫用になるはずもありません。
売り言葉に買い言葉が、一方的に脅しになるわけもありません。また、上場されている
株式ですから、株券喪失登録をしたとしても株券が無効となる1年内であれば善意取得
があり得ますから、拾ったものが、ただの紙切れになるわけもありません。
5 京都地裁での判決は、株券の価値は、株式の時価の80%とし、報労金の割合を12
%としていましたが、大阪高裁では、幾分相手方の言い分をのみ、株券の価値は時価の
70%とし、報労金の割合は10%と判断されました。これは、やはり、裁判所におけ
る被告(控訴人)の言動を少ししか見聞きしていない高裁の裁判官による判断なので、
やむを得ないのかなとは思います。ただ、株式の価値や報労金の割合については、確た
る判断基準がないような場合であるので、控訴棄却が妥当だったとは思いますが、裁判
官の自由裁量部分なので仕方ないところなのでしょう。
高裁判決の内容については、納得のいかない部分もありますが、いずれにせよ、こち
ら側の主張の大半は認められているのですから、勝訴判決であることには間違いありま
せん。