(株)日栄(現ロプロ)最高裁判決!
弁護士 黒澤誠司
1.2003年7月、最高裁が(株)日栄(現ロプロ)の主張を退ける判断を下しました。
借り主側の全面勝訴判決の瞬間です。これにより、全国の裁判所に約600件係属し
ている過払い金返還請求訴訟が一気に全面解決に向けて動き出すことになりました。
2.商工ローン被害の構造
商工ローンが社会問題化した当時、銀行は、バブル経済崩壊の中で、大量の不良債権
を発生させ、その後始末に躍起になっており、中小企業に対して貸し渋りと貸付金の
回収に奔走していました。その一方で、銀行にとっては上得意客である商工ローンに
は湯水のごとく資金を融資し続けてきました。いつ倒れるかわからない中小企業に貸
すよりも商工ローンに貸した方が確実に返済をしてもらえるというわけです。
銀行からの潤沢な資金を得た商工ローン会社は一昔前の怖い金融業者のイメージを払
拭すべく、有名番組のスポンサーとなったり、株式の上場を行ったりすることで安心・
安全な優良企業のイメージを作り上げてきました。
また、商工ローン業界最大手の日栄などは、経営がうまくいっている企業ではなく、
むしろ経営が苦しい中小企業を選んで、連日電話、FAXで融資の勧誘を行ってきま
した。経営がうまくいっている企業では借り入れをしてもらえないので、資金繰りに
苦しんでいる中小企業をターゲットにするわけです。
もちろん、そうした中小企業を相手にするわけですから、本来日栄は、倒産による貸
し倒れのリスクを負担することになるはずですが、日栄は貸し付けに際して多数の保
証人をとることでそのリスクを回避してきたのです。
元日栄の社員も「借り主から利息を、保証人から元金を回収する。」と明言していま
す。すなわち、中小企業の借り主には、利息制限法を越える高利を払わせ続け、いっ
たん借り主が破綻をすれば、今度は保証人に元金を請求し、絶対に損をしないように
していたわけです。元々経営が苦しい中小企業をターゲットにしているわけですから
年利30〜40%もの高利を支払い続けながら借り主が経営を続けることはほとんど
不可能です。実際日栄の顧客はその多くが2〜3年で経営破綻をしていっていました。
3.過酷な取り立て
あえて語弊をおそれずにいえば、日栄は、借り主はいつかは経営破綻をするものと考
えながら貸し付けをしていました。
従って、日栄がその本領を発揮するのは借り主が経営破綻をした後の保証人からの元
金の回収の場面です。多くの保証人は、親戚、知人から頼まれて深く考えずに保証人
となっており、しかも自らが借りたお金でもないので、「おとなしく支払ってくださ
いといっても払ってくれるわけがない。」というのが日栄の論理でした。そのため、
ひとたび借り主が経営破綻をすると、たちまち保証人に対して容赦のない取り立てが
始まるのです。新聞報道されただけでも「家売れ、さっさと、おまえ。家売り飛ばせ。
カネ作れ。」「目ん玉1個売れ、おまえ。2つももったいないわ、おまえみたいなア
ホに。」「若い衆4,5人をおまえの家に住まわせてやる。」「カネがなければ女房
売ってでも作れ。」等々です。
こうした脅迫的な取り立てが連日連夜続く結果、多数の自殺者がでる結果となりまし
た。
4.被害救済活動
そうした中1999年日栄本社のある京都で日栄・商工ファンド対策全国弁護団が結
成され、過酷な取り立てに対する刑事告訴および過払い金の返還請求訴訟を全国で展
開することとなりました。今回の最高裁判決は冒頭に述べたように日栄側の主張を完
全に退ける画期的な内容であり、上記最高裁判決によって、全国の日栄集団訴訟は一
気に解決に向かって動き出しつつあります。また、実際に裁判になっていないケース
でも、日栄側は過払い金の返還に応じざるを得ない状況に追いやられました。
5.形を変える金融業者
しかし、今回商工ローン問題が社会問題化したことで、法改正が行われ、貸し付けの
上限利率が引き下げられることとなった結果、現在貸金業者は、新たな生き延びる道
を模索しようとしています。大手サラ金は、銀行と手を組み新たな市場開発に乗り出
すようになりました。たとえば、「モビット」などは大手サラ金のプロミスとUFJ
銀行が手を組んでできたものです。他方、零細貸金業者は、貸金業の規制が厳しくな
ったことに対して開き直り、あえて年利1000%ほどの利息を取る違法営業を行う
一方で警察に捕まらない方法を考えることで生き延びようとしました。これが最近社
会問題になっている闇金融です。
6.商工ローン問題の際もそうでしたが、銀行などは政府から「公的資金」(私たちの税
金)を多量に投入されてきました。そうした銀行が「公的資金」を経済的に困ってい
る中小企業などに還元するならもっともな話ですが、実際には中小企業に対しては貸
し渋りを行い高利貸しの貸金業者に多額の融資を行っているのが、実態です。毎年大
量の自己破産者を続出させている消費者金融被害をなくすためにはこうした銀行や政
府の姿勢も厳しく問われなければならない時期にきていると思います。