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偽装請負ってどういうこと?
〜「口は出すけど責任は負いたくない」〜経団連会長の戯言
今、「偽装請負」と呼ばれる違法な労働が広がっている。偽装請負とは、本当は労働者
の「派遣」を受けているのに、「請負」だと偽ることを言う。
「請負」とは、例えば下請会社が発注元から注文を受けて、自前の工場で商品を作って、
発注元に納品するような場合を言う。「請負」の場合、発注元は注文した仕事が注文どお
りに完成すればよいのであって、どういう方法で仕事をするか、従業員をどのように働か
せるかは請負企業の自由であり、使用者として雇用責任を負うのも請負企業だ。裏返せば、
「請負」の場合、発注元は「口出しできない分、責任も負わなくてよい」ことになる。
これに対し、「派遣」の場合、派遣労働者を受け入れる派遣先企業は、派遣会社から派
遣されてきた労働者に対して指揮命令できるが、その反面、使用者責任や労働安全衛生法
上の義務を負うほか、雇い入れから3年(製造業の場合は1年)経過すると派遣労働者を
直接雇用すべき義務が生じる。言い換えれば、「口出しする以上、責任も負え」というこ
とだ。
ところが、最近、キャノン、ニコン、松下、日立、東芝など、日本を代表する大企業の
製造現場で偽装請負が相次いで摘発されている。大分キヤノンは、偽装請負があったとし
て大分労働局から改善指導を受けた。キヤノンは宇都宮市の本社工場でも指導を受けてい
る。このほか、ニコン、松下電器産業の子会社「松下プラズマディスプレイ」や東芝系の
情報システム会社「ITサービス」、富士重工業やトヨタ自動車グループの部品会社「光
洋シーリングテクノ」と「トヨタ車体精工」、いすゞ自動車系の「自動車部品工業」、今
治造船、コマツの子会社「コマツゼノア」で偽装請負が発覚している。このように偽装請
負が蔓延したのは、要するに、仕事の指揮命令はしたいが雇用責任は負いたくないという
企業の論理が理由である。
派遣法ができるまでは、日本企業では労働者を直接雇用するのが当たり前だった。直接
雇用の場合、雇う側は労働者に対して指揮命令できる反面、使用者としての責任も全面的
に負い簡単には解雇できない。いわば「口も出すが責任も負う」の原則形態である。この
責任を軽減して、社会保険料の支払義務等を負わずに安く雇い入れ、要らなくなったら派
遣期間満了を理由に簡単に首切りができる制度として導入されたのが労働者派遣である。
その意味では、派遣の場合、「口出しする以上、責任も負え」と言っても、その責任は雇
用の原則形態である直接雇用に比べて相当軽くなっており(その分、労働者の権利が軽く
なっているということだ)、もともと「口出しするけど、責任はちょっとしか負わない」
という雇う側にとっていいとこ取りの制度だといえる。
ところが、キャノンの御手洗社長(日本経団連会長)は、最近開かれた政府の経済財政
諮問会議で、「請負の受け入れ先が仕事を教えてはいけないことになっており、矛盾があ
る」などと述べて、請負の法制について「無理がありすぎる」と主張したそうだ。これは
要するに「口は出したいが、責任は一切負いたくない」ということだ。しかし仕事につい
て指揮命令したければ、きちんと雇用責任を負って直接雇用すればよいのであって、請負
のままで指揮命令をしたいというのは「口は出すが責任は負わない」という虫の良すぎる
話である。しかもルール違反を摘発された途端に、ルールを変えろと言い出すに至っては、
盗人の居直りに等しいと言わねばならない。日本財界の総本山である日本経団連のトップ
が、こんな駄々っ子のような発言をすることに慄然としているのは私だけであろうか。
弁護士 福 山 和 人