1. >
福山弁護士の「飲み法題」


       

労働契約法ってご存じですか?

労働契約法の制定   先ごろ、国会で労働契約法という法律が制定されました。雇い主と労働者との労働契  約については、今まで労働基準法や最低賃金法等の法律が最低基準のみを定めていまし  たが、それはあくまでこれ以上下回ってはならないという最低基準を定めるものにすぎ  ませんでした。そこで、あるべき労働契約について、法律で規定することにより、労働  者を保護しようというのが労働契約法制定の元々の目的でした。 就業規則の変更による労働条件切り下げ制度   ところが、今回制定された労働契約法には、使用者が就業規則を一方的に変更するこ  とにより、労働条件の切り下げができるという規定が設けられました。   すなわち、同法の第9条本文では、「使用者は、労働者と合意することなく、就業規  則を変更することにより、労働者の不利益に労働契約の内容である労働条件を変更する  ことはできない」と定められていますが、同条但書で「ただし、次条の場合は、この限  りでない」と例外が設けられました。   そしてこれを受けて、同法第10条では、「使用者が就業規則の変更により労働条件  を変更する場合において、変更後の就業規則を労働者に周知させ、かつ、就業規則の変  更が、労働者の受ける不利益の程度、労働条件の変更の必要性、変更後の就業規則の内  容の相当性、労働組合等との交渉の状況その他の就業規則の変更に係る事情に照らして  合理的なものであるときは、労働契約の内容である労働条件は、当該変更後の就業規則  に定めるところによるものとする」と定められたのです。 最高裁判例をそのまま明文化?   政府は、この規定について、これまで最高裁判例で認められてきた不利益変更の基準  をそのまま明文化しただけと言っています。しかし、これは明らかにごまかしです。   すなわち、最高裁判例は、10条が挙げるメルクマール以外にも、「代償措置その他  関連する労働条件の改善状況」、「他の労働組合又は他の従業員の対応」、「同種事項  における我が国社会における一般的状況」、「激変緩和措置の有無」等も考慮要素とし  てあげていましたが(みちのく銀行事件最高裁判決等)、今回制定された労働契約法第  10条ではそれらは抜け落ちています。 不利益変更を許さない取り組みを   こうした要素をことさらに除外したことで、使用者に対して不利益変更が容易になっ  たとのアナウンス効果がもたらさる危険性や、不利益変更の要件が緩和される危険性が  指摘されています。   最高裁判例をそのまま明文化したものという政府答弁を活用し、この法律によって不  当な不利益変更が合法化されることのないように、監視と取り組みを強めていく必要が  あると思います。 弁護士 福 山 和 人



<トップページへ>