1. >
福山弁護士の「飲み法題」

 

長時間労働の放置について安全配慮義務違反による慰謝料請求を認めた判決 教員超勤事件高裁判決〜その2

   3 この裁判の意味 給特法下においても、労基法37条が適用除外になるのは同法が例外的に 超過勤務を許容する要件を充たすことが前提となるはずだ。それを充たして いない場合は残業自体違法であって、労基法の適用を除外する前提が欠けて いるから超過勤務手当が支払われるべきと思う。  実際にそのような裁判が各地でたたかわれたが、いずれも給特法の分厚い 壁の前に敗訴を余儀なくされていた。 しかし現場の教員の多くは厚労省の過労死基準を上回るような超過勤務を 恒常的に強いられている。帰宅時間が毎晩深夜12時という教員も珍しくな い。自分の生活や子育てすら犠牲にして命がけで子どもたちと向き合ってい るのである。  こうした状況を知りつつ、教育行政当局は勤務時間外の教員の業務は全て 「自主的活動」だと言い、まるでお前が勝手にやっているのだと言わんばか りの姿勢に終始した。 校長らに対する尋問では、原告らの出退勤時間について、「きちっとした 時間はわかりませんね」、「記録にはとっておりません」、帰宅時間は「私 の印象」、「実際に何時に学校に来て勤務を始めたかはわからない」、「放 課後の先生の活動については把握できていない」等、お粗末極まりない証言 が続出した。  教員についても勤務時間を適切に把握すべきことは、政府も明言している のに(平成13年5月24日の参議院文教科学委員会における矢野文科省初 等中等教育局長答弁)、この有様である。  給特法制定後に教員の過労死事件が相次いだのは起こるべくして起こった というべきであろう。 給特法下においても、このような超過勤務の実態を放置することは、生命 ・健康への被害が具体的に生じていると否とに関わらず安全配慮義務違反と なるのではないかを問うたのが本事件の最大の特徴である。このことを問う た訴訟は全国初であり、もしも負ければその影響は計り知れない。  その意味で原告にとっても弁護団にとっても大きな賭であった。特に具体 的な健康被害が生じていなくても損害を認定できるのかが焦点で、実際被告 もその点を激しく争ってきた。 4 1審判決の意義 1審の京都地裁判決は、超過勤務手当の請求については、これまでの裁判 例と同様認めなかったが、安全配慮義務違反に基づく慰謝料請求については、 月108時間の超過勤務を行っていた1人の原告についてこれを認容した。 ようやく一穴を開けることができたのである。 1審判決は、@常態化した超過勤務があること、A校長がそれを認識、予 見できたこと、Bしたがって事務分配を適正にする等、勤務が加重にならな いように管理する義務があったのに、C必要な措置をとったとは認められな いとして、義務違反を認めた。 そして焦点の損害については、「過度な時間外の勤務がなされた場合には 肉体的のみならず精神的負荷が強いと推認できる・・・原告が上記健康の保 持に問題となる程度の少なくない時間外勤務をしていたことを踏まえると、 それによって法的保護に値する程度の強度のストレスによる精神的苦痛を被 ったことが推認される。」と判示して、「長時間勤務によって強度の精神的 ストレスによる精神的苦痛を被ったこと」を損害と認めたのである。                          −− 次号につづく (マスコミ9条の会のご了解を得て同会HPより転載させていただきました) 弁護士 福 山 和 人


<トップページへ>