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米海兵隊は「抑止力」か(その9)
◆中国の「脅威」についてA
2006年以降、日本の対中貿易量は対米貿易量を上回りトップの座
にある。
日本貿易振興機構が財務省貿易統計をもとに算定した統計によると、
2009年の日本の貿易総額に占める中国のシェアは20.5%と初め
て2割を超える一方、第2位の米国のシェアは前年の13.9%から
13.5%へと0.4ポイント低下した。
1990年にベルリンの壁が崩壊した当時の、日本の貿易に占める米
国のシェアは27.4%だったのが約20年で半減する一方、中国のシ
ェアは当時の3.5%から約6倍に急増し、今や日本にとって最大の貿
易相手国となっている。
また米財務省が発表した2008年9月の国際資本統計によると、中
国の米国債保有残高は5850億ドル(約56兆5600億円)で、2
位の日本の5732億ドル(約55兆4227億円)を抜いて最大の米
国債保有国となった。
このように今日、日米中の経済的な相互依存関係は以前とは比べもの
にならないくらい深まっており、日中間にひとたび軍事衝突が起きれば、
こうした経済関係は壊滅的な打撃を受ける。
このことこそが何よりもの紛争抑止力である。
かつてニクソン米大統領の下で国務長官として、米中国交回復を実現
したキッシンジャーは、抑止力について「得られる利益とは釣り合わな
いリスクを押しつけることによって、相手にある行動方針をとらせない
ようにする試みである」と述べた。
だとすると、その「リスク」とは何も軍事的リスクに限られるもので
はない。
外務省国際情報局長、防衛大学校教授を歴任した孫崎亨氏が、その著
書「日米同盟の正体−迷走する安全保障(講談社現代新書)」において、
「軍事攻撃の際は相手国との経済関係が途絶える。たとえば中国に関し
ては・・・年間10兆円以上の対日輸出がある。これに壊滅的な悪影響
が出る。経済交流が数年にわたり影響を受けることを考えれば、数十兆
円になる。さらに国際社会が無謀な攻撃を行う国に経済制裁を行う。こ
れを考慮すれば、攻撃により中国自体が被る経済的マイナスは数十兆円
以上の規模となる。この規模に中国の企業、労働者が張り付いている。
とてもこの経済悪化を受け入れられない」と指摘し、日本が近隣諸国と
密接な経済関係を構築することこそが大きな抑止力となることを説いて
いるのは極めて傾聴に値する議論であろう。
弁護士 福 山 和 人
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