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空飛ぶ弁護士のフライト日誌─DAY16:嬉しい「たいき」
機長:古川美和
今日は,傘をさして歩いてもサンダルの足下がぐしょぐしょになるくらいの本格的な雨。 そういえば,「雨待機(あめたいき)」が懐かしいなあ。 航空部の合宿は,カメハメハ大王よろしく,風が吹いたらお休みで,雨が降ったら寝て しまうってなもの。そういうときを,航空部用語では(別に用語というほどのものでもな いけど)「○○待機」という。その内容は,「強風待機」「横風待機」「雨待機」「霧待 機」或いは「雷待機」などいろいろだ。 「飛べそうかな?」と思って一応ランウェイに出て準備をした後にポツリポツリと雨が 降り出したり,強風が吹き出したりすると,「撤収(てっしゅー)!」の声がかかって, 「なんだよー。最初から待機にしろよー」とかブチブチ言いながら片づけることもある。 小雨だったり,風が強くなったり弱くなったりしているときは,ランウェイでしばらく待 機しながら飛べる条件のときに休み休み飛んだりもする。鼻息の荒い馬をちょっと走らせ ては止まって「どう,どう」といさめ,また走らせては止まる,みたいで,こういう待機 が実はいちばんしんどい。だから今日みたいな雨が朝からざんざん降ってて,「あーこり ゃ今日はもう駄目だ」と潔く朝から一日待機の方が,よっぽど嬉しいのだ。 待機の間にすることは,いろいろである。操縦技術とか,航空気象,航空力学とか,各 学年の進度に応じて「学科」と呼ばれる座学をしたり,「宿舎のワックスがけ」なんてこ ともある。 でも何と言っても嬉しいのは「自由行動」。疲れがたまってて宿舎で寝ころんで少年マ ガジンとかスピリッツとか読んでるヒトもいるけど(私も割と好き),木曽川だったら日 本三大稲荷の一つ「お千代保稲荷(おちょぼいなり)」の縁日とか,各務ヶ原の航空博物 館,木曽三川公園,あとは当時流行のスーパー銭湯(健康ランド?)に行くとか,いろい ろある。 福井空港だったら芦原温泉や三国温泉の公共温泉施設が楽しい。合宿も後半だと,「自 由だ!娑婆だ!」という開放感が麻薬みたいに作用して,些細なことでやたらハイテンシ ョンになる。 まあ,そんなこんなで何かと楽しい「待機」だけど,後にも先にもない待機として, 「たまご待機」というのがある。前にも書いたことがあるK大教官,朝起きてきて,宿当 (しゅくとう:宿舎当番)が卵を買い忘れたため1日1人1個と定められている卵がまっ たくないことを知り,いきなり「たるんどんのちゃうか!ちゃんとタンパク質採らないと ダメなんだよ。今日は待機だ待機!」そしてその日は晴れていてバッチリ飛べるにも関わ らず,1日待機になったのである。 K教官の真意については,たまたま虫の居所が悪かった説,待機にして自分がお千代保 稲荷に行きたかった説等,諸説様々であるが,「いやいや,ベテランK教官のこと。合宿 も後半で疲れが出ており,このまま続けたら事故がおこるかもしれないという兆候を直感 的に察知して,ああいう形で待機にしたのではあるまいか。」という意見もかなり有力に 主張されているところである。 いずれにせよ,K教官が亡くなられた今も,こうして「たまご待機伝説」は脈々と語り 継がれている。 弁護士 古 川 美 和
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