空飛ぶ弁護士のフライト日誌
空飛ぶ弁護士のフライト日誌─DAY28:夏の霧ヶ峰
機長:古川美和
夏が来れば思い出す,のは私の場合,霧ヶ峰。霧ヶ峰は,日本のグライダー
発祥の地と言われ,いわばグライダーの聖地。
普段の訓練は,関東支部→関宿,妻沼等,東海・関西支部→木曽川・福井等,
西部→久住等と支部毎にそれぞれの拠点で合宿をしているんだけど,年に2回,
九州は久住と,長野の霧ヶ峰で,各支部から参加受け付けをして支部間の交流
を深める合宿がある。
特に霧ヶ峰は2回生が中心で,割と「次世代を担う若手メンバーたちの顔つ
なぎの場」的な要素があり,いわく言い難い独特の楽しさのある合宿だった。
普段は公道を走れない3号ウインチを,仮ナン(臨時のナンバープレート)
を取って木曽川から運転して行くのも楽しかったし(中央道は轍がすごくて,
大雨だったものだから水たまりに入ると2mくらい水しぶきが上がって前が何
も見えなかった),諏訪インターを降りてものすごい登り坂でウインチがエン
ストしそうになったのもヒヤヒヤして楽しかったし,そこで3回生のウインチ
マンの先輩から聞いた話「俺さ,ここの坂下のガソリンスタンドで去年ポリタ
ンに軽油買ってたらさあ,白いレビンがスタンドの柱にぶつかってきたんよ。
中から女の子が4人真っ青な顔して転がり出てきてん。あいつら絶対あの坂フ
ットブレーキ踏みっぱなしで降りてたんやろな〜。ガハハハ・・」も笑えない
怖い話だけど有りそうで楽しかったし(当事者の方ごめんなさい),もう何か
ら何まで楽しかったんだけど,一番はやっぱり,これ。「パチンコ」でした。
私たちが普段載っているグライダーは,「ソアラー」という種類。つまり,
上級滑空機で,コックピットがちゃんとあって密閉されてて,抵抗が少ないよ
う流線型に成形されてるもの。性能が良くて簡単に高度をかせげるけど,風を
直に肌に感じるわけじゃない。
ところが,私が霧ヶ峰で初めて乗った,「プライマリー」=初級滑空機は違
うんですね。翼が上にあって,その下に簡単な骨組みだけの操縦席が着いてい
て,飛び上がれば風を全身で受けられる。強度がなくて,強い荷重がかかるウ
インチ曳航なんかは出来ないから,飛ばすときはパチンコなんです。ゴムの,
あのパチンコ。
グライダーに20〜30mくらいの長さのゴム索を装着して,20人くらい
でわっせわっせと引っ張ります。号令で一斉に手を離すと,ゴムの伸縮力でグ
ライダーが前に飛び出す,そのタイミングを上手く捉えて操縦桿をすうっ引く
と,グライダーはふわりと数メートル,「舞い上がる」。その感じが何とも,
「あ,ああっ,飛んでるっ!!」って感動で,視界がぐぐっとせり上がって,
身体が軽くなって,このまま羽ばたいていけそうな,一瞬だけ軽やかな鳥にな
ったような,・・・ホントにステキな体験でした。
もとはと言えば,天気が悪くて(その名のとおり霧ばかりで)普通のグライ
ダー(ソアラー)では1回ずつしか飛べなくて,時間つぶし?にみんなで順番
に飛んだプライマリーだったけど,あの「フワリ」の一瞬が,いつまでも消え
ない夏の思い出です。
弁護士 古 川 美 和
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