空飛ぶ弁護士のフライト日誌
空飛ぶ弁護士のフライト日誌
─ DAY31:サーマルは「折れ曲がる」?!
機長:古川美和
前回は、熱気球に乗って、「風の強さや向きは、高度によって違う」という
ことを実感したお話をしました。
でも同じことは、グライダー乗りとしても、とても大切な「感覚」なんです。
グライダーは(モーターグライダーは別として)動力がありませんから、紙
飛行機のように「落ちながら」飛びます。でも、上昇気流があるとそれに乗っ
て、高度を稼いで、また遠くに「落ちながら」飛べるんですよね。
でき方によっていろんな種類に分けられる上昇気流のうち、もっともポピュ
ラーなのが、「サーマル」。地面の熱によって暖められた空気が、ぐらぐら煮
立ったお鍋の「泡」のように、底から上がってくるという、「熱上昇気流」の
ことです。
サーマルは大体まあるい球形というか、円筒状というか、そういう形をして
います。グライダーが飛行中にサーマルに当たると、飛んでいる空気自体が持
ち上がるわけですから、グライダーもお尻からぐぐっと持ち上げられます。そ
のまままっすぐ飛び続けると、サーマルの中からあっという間に出てしまうの
で(サーマルが直径2Kmも3Kmもあれば別ですが、せいぜい数百メートルです
から)、サーマルの中でちょうど円を描いて飛び続けられるように、くるっと
旋回するわけです。
サーマルの中で上手にくるくる旋回し続けると、グライダーは上昇気流に乗
ってどこまでも(サーマルのトップまで)上がっていけます。
でも、風が吹いていると、グライダーは気流の中では円を描いて飛んでいて
も、空気自体が流されているわけですから、上がりながら風下に流されるんで
すね。
さあ、上空400〜800mの層では北風が吹いているとしましょう。
ところが800m辺りでウインドシアー(風の変わり目)があり、800m〜1200
mでは西風が吹いていたらどうでしょうか。グライダーパイロットはサーマル
を捕まえて、鼻歌交じりにぐんぐん高度を稼いでいきます。400、500、600・・
バリオメーター(昇降計)は景気よく上向いて+2〜2.5m/s(1秒間にグラ
イダーが2〜2.5m上昇している、ということです)を指しています。
さあいいぞ、今日の雲底は1500mはありそうだから、トップまで使い切って、
1500まで上がったら次の旋回点へ飛び出そう!とか考えているうちに、700、
800・・あれ? あれ? れれ?! ない! サーマルが無くなった!! しゅるるる・・
と下を向き始めるバリオ。おかしいなあ、もうこのプラス(サーマル)は終わ
りか・・パイロットはつぶやきながら、そのサーマルを後にして飛び出すかも
しれません。そしてサーマルの周囲には必ずと言っていいほどあるマイナス
(沈下)にたたかれ、あれよあれよという間に高度は600、400・・そして敢え
なく撃沈されて旋回点は回れずランウェイに帰投してくる・・。
ああ、幾度となく私も繰り返したよくある悲しいお話です。
でも、しかーし。このような風の変わり目には、サーマル自体も少し「移動
して」ねじれていることがあるんですよね。下手すると、折れ曲がっているこ
とも。そんなときは、急になくなった辺りで、少し風上や風下に足をのばして、
探ってみる必要があります。
旋回しながら、景色や雲の動き、流れ方や、上空の雲との位置関係や、そし
て何より「尻バリオ」。身体、特にお尻で感じる持ち上げられ方や、風の音、
空気の音、匂い(はあんまりしないけど)、そんないろんな「情報」を、全身
を耳のように研ぎ澄ませて感じ取る、そうしないと風をつかめない。
それが、グライダーのとびっきりのおもしろさです。
ああ、ホントに飛びたいな・・。
弁護士 古 川 美 和
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