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「医師の説明義務はどこまで求められるか」
─── 最高裁判所判決から───
【事案の概略】
自転車転倒事故によって後頭部に受傷した男児について、医師は@開頭手術
の必要性を告げると共に、A20人分程度の輸血協力の準備を指示した。手
術開始後、手術の模様を説明するため母らに手術室の入室を要請したが、母
親は入室せず別の親族が入室し、手術の模様の説明がなされた。その後男児
は出血多量で死亡した。医師の説明義務違反を理由に提訴がなされた。
【裁判所の判断】
上告棄却(最高裁昭和56年6月19日判決 判時1011号54頁、判タ
447号78頁)
最高裁は上記事案について次のように判断した。
「頭蓋骨陥没骨折の傷害を受けた患者の開頭手術を行う医師には、右手術の
内容及びこれに伴う危険性を患者又はその法定代理人に対して説明する義務
があるが、そのほかに、患者の現症状とその原因、手術による改善の程度、
手術をしない場合の具体的予後内容、危険性について不確定要素がある場合
にはその基礎となる症状把握の程度、その要素が発現した場合の対処の準備
状況等についてまで説明する義務はないものとした原審の判断は、正当とし
て是認することができる。」
【解説】
本判決は、医師に説明義務があることを肯定した最初の最高裁判決であるが、
判示に現れた説明義務に関する具体的な説示は曖昧なままである。
説明義務の判断基準に関しては、患者の自己決定権と医師の裁量との調和を
どこに求めるかという観点から、いくつかの見解が存在するが、本判決は、
「善良なる管理者としての医師または合理的な医師ならば説明するであろう
情報が説明されるべきである」とする合理的医師説を採用したものと理解さ
れている。なお、合理的医師説では、説明を怠った医師の判断が不適切であ
ったことを患者側が立証しなければならないと理解されている。
参考:別冊ジュリスト 医療過誤判例百選(第二版)有斐閣10頁
弁護士 黒 澤 誠 司
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