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「医師の説明義務はどこまで求められるか」(その2)
〜不妊手術後の再妊娠事件から〜
【事案の概略】
Aは不妊手術を受けたが、その後妊娠・出産をするに至った。一般に不妊
手術後も妊娠の可能性は1〜2%は存在し、特に分娩直後の手術では、再
妊娠の可能性は約5〜6%と高くなることが知られている。Aは医師から
再妊娠の可能性について説明を受けていなかったとして説明義務違反を理
由に提訴をした。
【裁判所の判断】
控訴棄却(大阪高裁昭和61年7月16日判決 判タ624号202頁)
大阪高裁は、上記事案について次のように判断した。
「患者が本件手術を希望した場合には、専門家である医師としては、患者
に対し、現在のところ100%完全な避妊方法はないこと、本件手術のほ
かにも避妊方法はありうること及び本件手術と他の避妊方法との利害得失
等を十分説明し、患者がこれらを考慮した上、なお本件手術の実施を求め
るか否かを決定できるようにする義務が存すると解するのが相当である。
特に、本件のように分娩後間がない時期に本件手術を実施するときは、手
術後再妊娠する可能性があり、しかも分娩直後の手術ではその可能性は更
に高まることを十分に説明しないまま本件手術を実施したときは、右義務
に違反したものとして、これにより患者が被った損害を賠償する義務があ
るというべきである」
【解説】
本判決では、患者が手術を受ける前提として手術選択のリスクを含めて専
門家である医師から十分な説明を受ける必要があること、そうでなければ、
患者としては適切な自己決定をなしえないという考え方が示されている。
患者が医療行為の客体に止まらず、決定主体であり、医師は専門家として
自己決定に必要な知識を供給する役割を担うという医師と患者のあり方が
示唆されていて興味深い。なお、同種事件の場合、現実には、説明がなさ
れたのか否かという事実関係の争いが中心となるものと思われる。
参考:別冊ジュリスト 医療過誤判例百選(第二版)有斐閣12頁
弁護士 黒 澤 誠 司
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