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気管支成形手術事件〜誓約書の効力
【事案の概略】
Aは気管支狭窄の治療のため、気管支成形手術を受けた。
その際、肺動脈本幹に亀裂を生じ出血し、止血困難なため左肺葉を摘出した。
Aは左肺全摘にいたる左肺動脈損傷につき医師に過失があった等として提訴した。
これに対して病院はAが手術前に「手術により如何なる事態を生じても一切異
議を述べない」旨の誓約書を出しているため責任を負わないなどと主張した。
【裁判所の判断】
一、二審は手術手技の過失を認め、上告審も原判決を支持した。(最高裁昭和
43年7月16日判決)
一審判決は、誓約書について、誓約書は単なる例文のたぐいとして無効と判断
し、二審判決は、病院に対する損害賠償請求権を予め放棄したものと回すること
は、他に特別の事情がない限り患者に対し酷に失し公平の原則に反するとし、誓
約書を理由に損害賠償責任を免れ得ないと判断した。
【解説】
手術・検査等にあたり、病院側から患者側に対し「手術の結果について一切異
議を述べない」という文書の提出を求められることが現在でもまれに見受けられ
る。
本件では、そのような文書の効力が一つの争点となった事案である。理由は様
々であるが、疾病治療のために手術等を受けざるを得ない立場にある患者は、病
院からこのような文書の提出を求められれば、その文書への署名・捺印をせざる
を得ない立場にあることなどを根拠として、当該文書が病院側に提出されていた
としても、病院側に過失の存在が認められる限り、病院側は責任を免れないとい
う判断がなされるのが、通例である。
医師と患者が公平な立場に立ちきれない現状に鑑みた場合、極めて常識的な判
断であると思う。
参考:別冊ジュリスト 医療過誤判例百選(第二版)有斐閣36頁
弁護士 黒 澤 誠 司
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