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幼児転落事件〜病院管理
【事案の概略】
A(3歳)は入院中に病室の窓と平行に密着して置かれていたベッドの
上で遊んでいて、立ち上がろうとして虫除け用網戸に手をかけたところ、
網戸が外れて転落し、死亡した。Aの遺族は、病院開設者に対して損害賠
償を求めて提訴した。
【裁判所の判断】
盛岡地裁は、本件で争点となった看護師・医師の物的設備に関する注意
義務について次のように判断した(昭和47年2月10日盛岡地裁判決)。
「病院の物的設備は、入院患者が安心して入院し治療を受けられるような
ものでなければならない。ベッドの配置についても同様である。つまり、
病院は入院患者に対し、その安全を確保する責任がある。」ベッドが正規
の位置から窓際に押しつけられていたにもかかわらず、医師、看護婦は、
「一目瞭然であるのに、全くベッドの位置について気をつけていない。こ
れは医師及び看護婦としての注意義務に違反するもの」であると判示した。
【解説】
病院内での幼児の転落事故についての判決であるが、本件では、Aの付
添人がベッドを窓際に押しつけたものと認定し、被害者側にも過失ありと
して請求額を減額した上で損害賠償を認めた。同種事案でも付添人が目を
離した隙に転落をしたケースでも被害者側の過失が認定され減額をされて
いる。
物的側面で安全への配慮をなすべき事は当然であり、特に小児病棟にお
いては、ベッドの位置・向き・ベッドの防護策、窓を高くし、ベッドとの
安全な高さの差を確保する、窓の開閉制限、窓の手すり・防護策等の安全
対策は不可欠と思われる。また、看護職者は患者の安全性を確保するため
の「看視注意義務」を負うが、同注意義務は患者の病態の変化に止まらず
ベッドの位置など物的側面への看視にまで及ぶと考えられる。
ただ、患者の安全は、医療機関に任せておけばよいというものではなく、
患者の安全に不備があれば、患者自身あるいは、付添人においても注意を
し、あるいは医療機関側に是正を求めることが必要である。
本件で認定された具体的な事実関係からすれば、被害者側の過失が認定
されたことは妥当な判断であったと考えられる。
参考:別冊ジュリスト 医療過誤判例百選(第二版)有斐閣208頁
弁護士 黒 澤 誠 司
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