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診療拒否事件
【事案の概略】
Aは、交通事故で肺挫傷等の重傷を負った。救急隊が近隣のS病院に
搬送したが、S病院では第三次救急患者と診断され受け入れられなかっ
た。その後、Y病院に受け入れを問い合わせたが、専門医が宅直との理
由で、受け入れられなかった。次にK病院に受け入れを要請したが、手
術中を理由に受け入れられなかった。結局隣市のN病院に搬送されたが
死亡した。
遺族は、病院には医師法に定める診療義務違反とその信頼に対する違
反があるとして慰謝料を請求した。
【裁判所の判断】
裁判例では、診療拒否はやむを得なかったとして責任を否定したもの
と、正当な理由のない診療拒否として責任を肯定したものがある。
本件では、病院側が受け入れ拒否の理由とした内容について詳細な検
討を加えた上で、病院側の受け入れ拒否には正当事由がないとして病院
側の責任を認めた(神戸地裁平成4年6月30日判決)。
【解説】
近年産婦人科等を中心に病院側の受け入れ拒否のために重篤な結果を
招来する事案が続発している。
診療拒否事案については、@医師法19条違反は不法行為を構成する
か、A専門医不在や当直医の多忙は診療拒否の正当事由となるか、Bベ
ッド満床は診療拒否の正当事由となるか等が問題となる。
そして、特に争点となる診療拒否の正当事由については、病院側の事
情・患者側の事情・地域の医療事情を総合考慮して判断がなされること
が多い。
また、病院側の責任が認められるケースでも結果との因果関係まで肯
定することは難しく、適切な医療を受ける機会を奪われたことに対する
慰謝料が認定されるに止まっている。
近時、医師不足、特に産婦人科や小児科の医師不足大きな問題となっ
ている。経営困難との事情から地域の基幹病院が閉院に追い込まれるケ
ースも報道されている。
人の生死に直結する医療体制については、何よりもまず整備されなく
てはならないし、根本的な解決のためには、国の施策を変えなければな
らない。定額給付金にお金をばらまいている場合ではない。
参考:別冊ジュリスト 医療過誤判例百選(第二版)有斐閣214頁
弁護士 黒 澤 誠 司
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