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また少年法改正、何のため?
今またしても、少年法の改正がなされようとしています。
2000年に少年法が「改正」されました。14歳でも刑事処罰を可能とし、少年に無
期懲役刑を科すことも可能としました(死刑とすべき場合には無期懲役という点は変更あ
りません)。また、被害者が亡くなったような場合には、原則逆送として、大人と同じよ
うに公開の法廷で裁判が行われ、大人と同じような処罰が可能となるようにするなど、い
わゆる「厳罰化」がなされました。鑑別所に収容する期間も、最大4週間であったものが、
事件によって、8週間まで認められることになっています。
このような改正がなされた背景には、不確かな(端的に言えば間違っている)情報の氾
濫があるように思われます。
このような報道を目にしたことはないですか?
最近の少年は凶悪化している、少年の犯罪が増えている、少年を保護しすぎによって被
害者の救済が阻害さている、と。少年が犯罪を犯すのは、少年法によって甘やかされてい
るからだ、厳しく処罰しないから少年犯罪が増えるのだ、と。
でも、改正を推進した国会議員の「お偉い」先生方に「本当に少年による凶悪犯罪は増
えているの?」と聞いても誰もまともには答えられません。
当然です。現実には、少年による凶悪犯罪は増えてなどいないからです。
例えば、少年が殺人事件で検挙された件数は、1950年頃と2000年頃を比べると
3分の1から4分の1くらいになっています。犯罪の統計では、「激減」と表現すべき変
化です。また、いわゆる凶悪犯罪(殺人、強盗、強姦、放火)として検挙される少年の割
合は、1965年頃は、少年刑法犯の総数(交通事犯は含みません)の4%近くを占めて
いましたが、徐々に減っており、ここ20年くらいは、1.5%あたりで安定しています。
総数自体は(どの年代と比べるかにもよりますが)そんなに変化はありません。
年ごとに少々の上下はありますが、全体としてみるならば、凶悪犯罪は、明らかに減少
しているのです。
子ども同士の喧嘩で、いきなり警察に通報するような学校が増えているにもかかわらず、
少年の犯罪総数自体はそんなに変わりません。
それなのに、「厳罰化」して少年犯罪の「増加」に歯止めをかけるのだと「改正」がな
されてしまいました。
少年法は、子どもたちを、未来の国を背負って立つ仲間であり、未成熟さがもたらした
非行を単に非難するのではなく、どうやったら立ち直っていけるのか、を親身になって考
えていこうということを基本的な考え方としています。ところが、2000年の改正は、
その基本的な立場を根本的に捨て去るに等しいとしか評価できない改正でした。ですので、
少年事件にかかわる多くの人は、この改正には、否定的だったのです。
ところで、少年非行に陥ってしまう少年のおおよそ半数は、児童虐待の被害者である
(あった)ということはご存じでしょうか。健全な成長のための一つの条件が欠落してし
まっているのです。ですので、原因を理解することなく、非難を浴びせ、処罰を科す、と
いうだけでは、立ち直りは期待できないのです。
2000年の改正時においては、5年後に見直すとしていながら、まともな見直しの議
論は何もなされませんでした。そればかりか、今、さらに少年法を「改正」しようとして
います。
その内容は、@触法少年及びぐ犯少年に対する警察の調査権限を付与すること、A少年
院送致年齢の下限撤廃して場合によれば小学生でも少年院に収容できるようにすること、
B保護観察中の遵守事項を守らない少年に対して、非行事実はなくても施設収容処分を可
能とすること、C検察官関与を前提としない一定の重大事件について国選付添人制度を導
入すること、などが中心です。
このうち、Cについては、一定の肯定的な評価はできますが、その他は、先の改正と同
じように、少年を単に敵対視しているとしか思えないものです。
敵だと思われれば誰しも反発したくなりませんか。
警官の目から見て、行いが悪い(ぐ犯)といって、いきなり警察官からあーだこうだと
取り調べを受けたら、大人だって切れそうになったりするんじゃないですか。
特に10代の頃など、敵だと思われなくても、あれこれ反発したい年頃です。「何で悪
いようにしか見ないんだよ」などと、息巻いていたりなどしたことはないですか。
そればかりか、わずか20〜30年前とは比べものにならないくらい、子どもを取り巻
く情報が氾濫しています。子どもには見せたくない情報がぎっしりです。暴力のみが正義
の物差しだと言わんばかりの子どもアニメや敵は抹殺すべきものとするテレビゲームなど、
盛り沢山です。これらは全部大人が「もうけ」のために作り出しています。
こんな環境の下に育ちながらも、少年の凶悪犯罪は明らかに減少しています。年少少年
の凶悪犯罪が増えているなどという事実はありません。それなのに、小学生を、少年院に
入れて、どうするのでしょうか。幼くして(重大な)犯罪を犯すとすれば、その成長過程
に何か重大な問題があったのではなかろうかと考えられます。そう考えて対応すべきです。
そして、その問題を解き明かすことこそ必要なのであって、「罰として」少年院に入れて
も、問題の解決につながるようには思えません。
今回の改正も、少年は何を考えているかわからない、いつ犯罪を犯すかわからない怖い
存在だ、少年の犯罪が増えているのでそのおそれのある段階で警察が強権的に関われるよ
うにすべきだ、などという、事実に反する情報を下に行われようとしています。
繰り返しますが、少年は、決して凶悪化などしていません。それなのに、いたずらに恐
怖心をあおっているのです。
子どもたちは、敵ではありません。パートナーです。
事実に反する情報を前提とする法「改正」は許されてはなりません。
弁護士 岡 根 竜 介
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