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執行猶予〜〜即決裁判手続が不幸を生む?
1 「主文、被告人を懲役3年に処する。この裁判確定の日から5年間その刑の執行を猶
予する。」
この後、判決の理由が説明され、最後にもう一度、執行猶予の意味を確認する裁判官が
多いように思います。
これは、よくあるパターンの刑事裁判の判決言い渡しです。執行猶予とは、広辞苑によ
ると「刑の言い渡しをすると同時に、事情により一定期間その刑の執行を猶予し、その猶
予期間を無事に経過したときは、刑の言い渡しの効力を失わせる制度」と説明されていま
す。要するに、懲役刑とされても、例えば、(先の例だと)判決を受けた後、5年間(新
たな)犯罪を行わずに有罪の判決を受けるようなことがなければ、懲役3年のおつとめは、
しなくてもよいことになる、ということです。ですので、執行猶予つきの判決を受けると、
拘置所に身柄を拘束されていた場合には、晴れて自由の身になれます。
執行猶予が付くか付かないかは、被告人ばかりでなく、その家族や関係者にとっても、
重大な問題です。
2 なぜ、執行猶予というような制度があるのでしょうか。
これは、人の自由を奪うようなことはやむを得ない場合にだけ許されるのであり、むや
みに認めることは慎まなければならないとの考え方と、本人が普通に社会生活していても
犯罪を犯すようなことはなく、更正できるのであれば、その方が、本人の利益になるだけ
でなく、社会の利益にもなるということなのでしょう。
3 どのような場合に認められるのかというと、主文が「3年以下の懲役か禁固」または
「50万円以下の罰金」の場合で、猶予の期間は「1〜5年」の範囲で認められることに
なります。
ただし、前科がある場合には、その刑を受け終わってから5年以上たっていることが必
要なので、繰り返していると、信用をなくすということがこういう形でも現れることにな
ります。
また、「弁当持ち」と言われる執行猶予期間中にまた犯罪を行ってしまった場合には、
主文が「1年以下」の懲役か禁固の場合であれば、執行猶予とすることも出来ますが、よ
ほどの事情がないと、再度の執行猶予はないと思っておいた方がいいと思います。前刑の
執行猶予に「保護観察」が付いていると、必ず実刑になります。
実刑になると、今回の刑によって刑務所にはいることになりますが、前刑の執行猶予が
取り消されることになるので、今回の刑と前回の刑の合計年数をつとめなければならない
ことになります。
4 最近新しい制度で、即決裁判手続きというものができました。1日で裁判が終わり判
決まで言い渡されます。そして、即決裁判手続きの場合には、必ず執行猶予判決になるの
で、裁判が終わればすぐに家に帰ることができるようなります。たしかに、そのときは、
被告人にはありがたいことでしょう。
でも、覚せい剤取締法違反などの常習性のあるような場合に、とりあえず、執行猶予と
いうことで簡単な裁判をするだけでは、裁判を受けたという意識が薄くなりがちで(感銘
力がない、等という言い方をする)、ついついまたやってしまった、ということも今まで
以上に多くなりそうです。その場合、ほぼ確実に2回目は実刑と言うことにもなりかねま
せん。しかも前刑分が加算されることになります。本人が悪いと言えばそれまでですが、
常習性のある犯罪に取り憑かれてしまった人は、治療を受けるなど、周りの協力がないと
なかなか立ち直れないということもまた事実です。
実際、この即決裁判手続きが選ばれている事件は、今まで起訴猶予(起訴されないので
裁判所には行かない)として、前科が付かなかったケースではないか、という疑問が、弁
護士の間では渦巻いています。
これでは、さらに立ち直る機会を奪うことにもなりかねず、本当に被告人の利益にはな
らないような気がしてなりません。
弁護士 岡 根 竜 介
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